- ゴルフのニュース|総合ゴルフ情報サイト
- 記事一覧
- コラム
- なぜジャケット着用でゴルフ場に行かねばならないのか? 仕方なく着てったら“自動チェックイン機”て…/木村和久『ゴルフ=レジャー宣言』
「ゴルフはスポーツか? それともレジャーか?」――600万人ともいわれるゴルファーのなかでは見解はさまざまだと思いますが、あなたはどう考えますか? ゴルフを筆頭に、平成~令和の日本を縦横無尽に遊び尽くしてきたコラムニストの木村和久氏が、浅いのか深いのかよく分からないこの問いを考察していきます。
起源はロンドンの高級会員制クラブでメンバーの証として
今回はゴルフ場に行く時のジャケット着用に関する考察です。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる!』的な質問をするなら「ねぇねぇ岡村、どうして名門ゴルフ場はジャケット着用しなきゃいけないの?」という感じでしょうか。

その答えをチコちゃんが言うと、「クラブだから」という実にそっけないものになります。
では、このクラブとはなんでしょう?
もともとは英国の社交クラブのことを指します。時は18世紀後半の大英帝国、紳士の社交場として会員制の社交クラブが誕生します。19世紀中頃にはロンドンのセント・ジェームス街を中心にレストラン、談話室、ゲーム室、宿泊施設を備えた豪華なクラブが続々誕生しました。
クラブは厳しい入会審査を通った紳士たちが、政治や経済の情報交換をし、裏では飲酒、喫煙、賭博に興じ、清濁併せ呑むエクスクルーシブな空間を楽しんだのです。
クラブのルールは独善的で個性的なものが多く見受けられます。探偵小説の「シャーロック・ホームズ」の中で、ホームズの兄のマイクロフトは政府の高官で「ディオゲネス・クラブ」を運営していました。
その会則は実に奇妙なもので「談話室以外私語厳禁」でした。個性的なクラブが林立するロンドンの現状を嘆いた、原作者のコナン・ドイルは皮肉を込め、会話を楽しむクラブで、わざと私語厳禁ルールを作ったと言われていれます。
つまりクラブはステイタスを保つために、個性的な厳しいルール作りに励んだのです。
その後、クラブメンバーは郊外に赴き、スポーツやレジャーを楽しむようになります。ポロやテニス、ゴルフをする場としてカントリークラブが成立するのです。
だから、ロンドン発祥の高級会員制クラブの延長としてのカントリークラブ、それをゴルフに絞ったゴルフクラブが作られたのです。
その後、英国の社交クラブの伝統は、日本の名門ゴルフクラブに引き継がれます。入会に紹介状が必要、高額な入会金などはロンドンのクラブの伝統そのままです。そしてクラブメンバーの証として、ジャケット着用を義務づけました。
ネットでビジター予約可なのにジャケット着用て…
ざっくりの肌感覚ですが、日本で2000ぐらいメンバー制のゴルフ場があり、そのうち100クラブ程度の名門がジャケット着用ルールを厳格に義務づけているでしょうか。
その次に、建前上ジャケット着用を義務づけながらも名門よりはゆるい“準名門”クラブが200~300ぐらいあると思われます。
そして残る大半の“普通のクラブ”は、ジャケット着用に関してはかなり濃淡の差がありますが、いっさい関知しないところから奨励やお願いベースがせいぜいで、「義務」とまでいえるところは少ないように思われます。
以上、3つの分類のなかで最も問題となるのは準名門クラブです。経営者が頻繁に交代してきた経緯をもつクラブも多く、昔の栄光に固執しすぎているきらいがあります。現状はメンバーのみの運営では立ち行かなくなり、ネットでビジターを動員しているケースも多いです。
本来はメンバー同伴かメンバー紹介でしか入れない会員制なのに、ネットで手軽にビジターが予約できては純然たるメンバーシップとは言えませんよね。
準名門クラブ側の本音はこんなところでしょうか。「今はビジターに助けてもらっているが、ジャケットを着用させて威厳を保ち、もう一度名門の仲間入りを果たしたい」。
そういうわけで、準名門クラブでは、ジャケット着用を巡りトラブルが発生することがしばしばあります。最近では、関東の某準名門クラブが、10着ほど貸し出し用のジャケットを用意して、ジャケットを着てこないゲストに貸しているとか。これはいったい何をしたいのでしょうか??
コースでジャケットを貸してくれるなら、ジャケットを着てこなくてもいいじゃん。むしろ「このゴルフ場はジャケット非着用問題が起きています」と、かえって世間にアピールしているだけのような気がしますけど……。
自分の行動パターンを言いますと、名門クラブなら迷わずジャケットを着て行きます。クラブハウス内はみんなジャケットを着ていて、名門の雰囲気がありまくり。もしジャケットを着ていなかったら恥をかくところだった、それぐらい威厳があり、敬意を払うべき雰囲気です。
一方、準名門クラブの場合、歴史や経営、評判をネットで調べ、ジャケット着用をするかはこちらで判断させていただきます。もちろん過去において判断ミスにより、ジャケットを着ていけば良かったと思うことはありましたけどね……。
今年の冬はこんなことがありました。ジャケット着用が義務だけど、ネット予約できるクラブに行きました。さて、どうしたものか? とりあえず様子見作戦をします。つまり、黒い革靴に見えるスニーカーにグレーのパンツ、ジャケット風に見えるブルゾンなどを着てクラブを訪れたのです。
結果的にはコートを羽織ったまま、自動チェックインを済ませて無事ロッカーへ。なんだよ、コートを脱がないで済むなら中の服は分からないじゃん。そもそもジャケット着用をさせるなら、自動チェックインはないでしょう。フロントで挨拶してこその、ジャケット着用じゃないのかな?
準名門クラブがジャケット着用で格上げしようとするのは、ちょっと無理な考えだと思います。だったらオシャレなクラブ&コースに造り変えて、インスタ映えスポット等を作るべきでしょう。さすれば最近の若者は、外見からゴルフに入る人が多く、必ずや
着飾って来るハズ。オシャレを競わせるように仕向けた方が得策と思うのですが。
もしクラブ側がジャケット着用にこだわるなら、ビジターが多い平日はジャケット不要、クラブ競技やクラブイベントが多い週末と祝日はジャケット着用と、分ける案はありますけどね。つまり、セミパブリック化するということです。
われわれはゴルフをしに行ってるだけです。クラブ行事に参加しているわけではありません、あしからず。
文/木村和久
1959年生まれ、宮城県出身。株式投資から大衆文化まで、さまざまなジャンルで“現代”を切り取るコラムニスト。有名ゴルフ媒体へも長く寄稿してきており、スイング理論やゴルフ場設計にも造詣が深い。近年はマンガ原作者としても活躍。
最新の記事
pick up
ranking