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コラム

「韓国にいたら、今の私はいない」イ・ボミが語る日韓ツアーの決定的な“環境の差”と、日本を選んだ現実的理由

2026.03.24 キム・ミョンウ
イ・ボミ 国内女子ツアー 韓国 韓国女子プロが残したもの

韓国で賞金女王となったイ・ボミが、王道とされた米ツアーではなく日本を選んだ理由を告白。母の助言や言語・時差への不安、そして日韓で大きく異なる“競技環境”が、彼女の成長と成功を後押ししていた。

 かつて、これほどまでに日本中に愛された韓国人アスリートがいただろうか。日本ツアー通算21勝、2015、16年に2年連続で賞金女王となり、「スマイルキャンディ」の愛称で女子ゴルフ界に社会現象を巻き起こしたイ・ボミ。

 韓国ツアーで女王に輝いた彼女が、次なる舞台に選んだのは米ツアーではなく日本だった。なぜ海を渡り、そして日本で「完成」したのか。引退から時を経て、改めて現役時代を振り返ってもらった。母の助言、米ツアーへの不安、そして日本で見つけた“伸びるための環境”――。前後編にわたり独占取材で解き明かす。(取材・文/キム・ミョンウ)

母の後押しと“米ツアーへの不安”

イ・ボミが明かす“成功を分けた決断” 写真:大澤進二
イ・ボミが明かす“成功を分けた決断” 写真:大澤進二

 イ・ボミが韓国女子プロゴルフ(KLPGA)ツアーで賞金女王になったのは、2010年、22歳の時。次の舞台を選ぶ局面で、韓国では米ツアーが“王道”とされていた。だが、彼女が最終的に選んだのは日本ツアーだった。そこには単なる距離や環境だけではない、当時の彼女自身にとっての「現実」があった。

 なぜアメリカではなく日本だったのか。そう問いかけると、イ・ボミは少し間を置き、まず母の存在を挙げた。

「それは……お母さん(ファジャさん)の判断ですね。母が見る限り、私にとってはアメリカよりも日本ツアーの方が早く馴染めるし、うまくやっていける環境だと思ったみたいで。母の積極的な後押しがあって、日本を選びました」

 もちろん、母の勧めだけで決めたわけではない。本人の中にも米ツアーへの不安ははっきりとあった。

「韓国ツアーからスポットで米ツアーのメジャー大会に出場したのですが、時差ボケも治らないし、英語もできないし……。拒否感というより、不安が先に立つツアーだったんです」

 そのうえで、日本という選択の現実味をこう説明する。
「でも日本は近いですし、日本語を一生懸命勉強すればやっていける気がしました。家が近いというのも、すごく大きなメリットでしたね」

噛み合わなかった“アメリカでの現実”

 実際、米国での経験は噛み合っていなかった。「全米女子オープン」などに出場した際も、食事、移動、時差、コースへの適応――どれも簡単ではなかった。

「いつも、寝ても寝ても眠くて(笑)。試合をしてから移動するので、現地に着いて数日で適応しなきゃいけない。それがすごく難しかった」

 さらにプレー面でも、アメリカ特有の難しさがあった。

「私は弾道が低い方なので、風が強い状況では有利だと思っていたのですが、アメリカのゴルフ場では高い弾道で打てないと攻略が難しいんです。いろんな面で、ぶつかってばかりでした」

日本で感じた“競技環境の質の違い”

イ・ボミが振り返るキャリアを変えた選択 写真:大澤進二
イ・ボミが振り返るキャリアを変えた選択 写真:大澤進二

 一方、日本ツアーに参戦した時の印象は対照的だった。ファイナルQTを10位タイで突破し、2011年から出場権を獲得。

 デビュー戦となった「ダイキンオーキッドレディス」は忘れられない。沖縄のコースは日韓戦で経験済みだったため違和感はなかったが、記憶に残っているのは春の空気の心地よさだった。

「3月のとても良いお天気のなかで試合ができて、ただただ楽しかった記憶があります。シーズンをすごく良い形でスタートできました」

 ただ、本当に驚いたのはコースそのものよりも“競技環境”だった。

「韓国ツアーでは、練習は外で行い、コースでは試合だけという状況でした。ヤーデージブックも自分で全部書かなければいけなかったんです。ドライビングレンジやアプローチの練習環境も少なく、選手は外の練習場で調整してから会場に入ることが多かったです」

 つまり、会場そのものの完成度が違った。

「日本に来てみたら、ヤーデージブックはしっかり作られているし、練習場もコース内にある。すべてがコース内で完結するので、すごく“質”が良かったんです。疲れも溜まらないし、練習の効果も感じやすかった」

“消耗しない環境”が成長を加速させた

 日本は単なる“戦う場所”ではなく、上達のための環境が整ったツアーだった。この点は、彼女の成功を読み解くうえで重要だろう。

 日本ツアーは単に賞金を稼ぐ場ではなく、選手がゴルフに集中できる仕組みが整っていた。だからこそ、韓国で頂点を極めた選手でさえ、さらに伸びる余地があった。

「今思えば、もし韓国で賞金女王になったあと、そのままツアーに居続けていたら、『こういう環境で頑張るしかない』と思っていたはず。でも日本に来たら環境が良くて、体の疲れも少なくなり、『ゴルフがうまくならないわけがない』と感じました」

 さらに、日本ではコンディション調整まで含めて、自分で組み立てやすかったと振り返る。

「韓国にいると、練習する時間、移動する時間、ご飯を食べる時間……一日のスケジュールがすごくハードなんです。でも日本なら『何時から何時までゴルフ場にいればいい』というのが決まっているので、その中で練習もコンディションも調整できます」

 言い換えれば、消耗の仕方そのものが違った。

「外の練習場に通うのは、今考えるとかなりエネルギーを使っていたんだなと思います。そういう環境だったからこそ、あそこまでできたんです」

 韓国に一時帰国して試合に出ると、その差はより鮮明に分かったという。日本の環境に慣れた体には、外の練習場とコースを行き来する動線が、以前よりも重く感じられた。

「たまに韓国ツアーで戦うと疲れは感じます(笑)。でも、当時は若かったからできていたんだと思います」

“自然に整う環境”が生んだ完成形

イ・ボミが感じた限界と、日本で“完成”した理由 写真:大澤進二
イ・ボミが感じた限界と、日本で“完成”した理由 写真:大澤進二

 そのうえで、日本の“環境の良さ”は怠けられるという意味ではなく、自然に自分を整えられる心地よさだったと説明する。

「韓国は短い時間でも強い集中力が必要で、『集中して、緩める』という切り替えが上手くないといけない。日本はゴルフ場という空間の中で、自然にコントロールできる感じ。韓国では『コントロールしなきゃ』と頑張る必要があるけど、日本は無理に意識しなくても自然にできる、そんな感覚があります」

 イ・ボミが日本で強くなった理由は、単純な技術論だけでは説明できない。もちろん実力はあった。だがそれ以上に、彼女の力を無理なく引き出してくれる環境が、日本にはあったのかもしれない。

 韓国で賞金女王になった選手が、日本でさらに完成していく。その始まりには、母の助言と本人の不安、そして「ここならやっていけるかもしれない」と思わせる土壌があった。この選択はのちに単なる“移籍”ではなく、一人のゴルファーの運命を変える決断だったことが分かっていく。

イ・ボミ

1988年8月21日生まれ、韓国出身。2010年に韓国女子ツアー賞金女王となり、11年から日本ツアーに参戦。15年に7勝、16年は5勝して2年連続で賞金女王となる。ツアー通算21勝。19年12月に俳優イ・ワン氏と結婚。23年シーズンをもって日本ツアーからの引退を発表した。愛称は“スマイル・キャンディ”。延田グループ所属。

取材・構成/キム・ミョンウ

1977年生まれ、大阪府出身の在日コリアン3世。新聞記者として社会・スポーツ取材など幅広い分野を担当。その後、編集プロダクションを経てフリーに転身。2010年、サッカー北朝鮮代表の南アフリカW杯出場決定後、日本メディアとして初めて平壌で代表チームを取材し、『Number』に寄稿。2011年から女子プロゴルフの取材も開始し、日韓の女子プロとも親交を深める。現在は女子ゴルフとサッカー、アスリートインタビューなどを中心に雑誌やWEB媒体に寄稿。著書に「イ・ボミ 愛される力」(光文社)。

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