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- 五輪ゴルフ無観客開催の裏側で地元に残った“おもてなし”の準備とは
東京五輪のゴルフ競技が行われた埼玉県の霞ヶ関カンツリー倶楽部の地元・川越市では、無観客開催により見込んでいた五輪特需もないまま、静かにスポーツの祭典を迎えました。コース上で各国の代表選手たちが熱戦を繰り広げていたなか、地元が準備していた“おもてなし”を取材しました。
五輪ゴルフ競技開催中でも静寂に包まれていた笠幡駅の駅前広場
東京五輪ゴルフ競技・女子の部の3日目が行われていた8月6日の正午過ぎ。大会会場となった霞ヶ関カンツリー倶楽部の最寄り駅であるJR川越線・笠幡(かさはた)駅の駅前広場は、静寂に包まれていました。
本来であればこのロータリーも、世界中から訪れた観戦客でにぎわっていたはずでした。
会場が霞ヶ関CCに決まった後、JGAの幹部である永田圭司副会長や山中博史専務理事は、「1日、2万5000人」の観客動員を公言していました。しかし、コースの近くを走る川越線は単線であるため、輸送力に限界があります。
そのため、トーナメント終了時などに帰路を急ぐ観客が、笠幡駅前にあふれてしてしまう可能性もありました。そうした事態にも対応できる広大なスペースが必要でした。
「オリンピックが決まり、この事業がスタートしました。整備計画は元々あり、笠幡駅の開発が前倒しになったわけです」(川越市都市計画部都市整備課・町田猛課長)。
その結果、海外からの観戦者に向けた4か国語の案内板、多機能トイレを備えた公衆トイレ、思いやり降車場、路線バス降車場、タクシー降車場を各1か所ずつ備えた総面積2200平方メートルの駅前広場が完成。2019年の2月17日から供用が開始されました。
しかし、2020年に行われるはずだった東京五輪は1年延期。さらに、開幕まで15日に迫った2021年の7月8日に、東京、神奈川、千葉、埼玉の会場での無観客開催が決定。
これにより、3月に海外からの観客の受け入れが見送られたのに続き、日本国内のギャラリーも霞ヶ関CCを訪れる可能性はゼロになりました。
人影がまばらだった笠幡駅から近い飲食店も、正午を回ったばかりだというのにお客はわずか3人。改装したお店に外国人観光客が訪れ、自慢のメニューをSNSで世界へと発信してもらおうという夢は、はかなく消えてしまいました。
この駅前広場の整備には、約5億7000万円が投入されています。
今後も残る市民の財産で、価値がゼロになったわけではありませんが、その豪華さと閑散とした風景の余りの落差に、切なさを感じる地元の方も少なくないはずです。
無観客のダメージはお膝元の笠幡駅周辺だけでなく、川越市の中心部にも及んでいます。たとえば川越駅西口から徒歩2分の複合商業施設である「U_PLACE」。2017年4月に市有地を貸し出す開発業者がプロポーザル(企画競争入札)によって決まり、行政窓口のほか、上層階にはホテルや飲食店が誘致され、2020年7月24日の東京五輪開幕前の開業を目指しました。
注目を集めたホテルは川越東武ホテルに決定。7階のフロントから最上階の11階まで168室を擁するホテルが2020年の6月29日にオープンしましたが、その後、無観客開催という衝撃のニュースに見舞われました。
「オリンピック期間中は、宿泊のお値段も関係なく予約される海外からのお客様も多かったのですが、すべてキャンセルです。国内にもそういうお客様がたくさんいらっしゃいましたが、白紙に戻りました」(同ホテルの宿泊部マネージャー)。
いざゴルフ競技が始まると、宿泊客は五輪関係者が6割を占め、このほか工業団地に来るビジネスパーソンなどの予約が入り満室状態に。とはいえ高額の設定が通用する富裕層が相手ではないため、料金設定は有観客だった場合の半分。当然利益も半減することになります。
東武ホテルでは海外からの観光客に備え、全社的に語学などのトレーニングに注力し、館内の英語表記や感染予防対策などを準備していました。そうしたスタッフの活躍の場も消えてしまいました。
また、地元の人たちが五輪を楽しめるチャンスも失われ、最も残念だったのは、埼玉県内の小・中高生5500人が、県内で行われる競技を観戦できるはずだった「学校連携観戦プログラム」が流れたことかもしれません。
2020円の入場料を県と市町村が50%ずつ負担し、川越市には男女500人ずつが割り当てられていました。霞ヶ関CCの1番ホールのセカンド地点には待機用の施設も出来ていました。
300ヤード以上先まで、空気を切り裂く音を残して飛んでいくドライバーショット。神業のようにも見えるアプローチやパッティング。子供たちは実質無料で、世界のトッププレーヤーたちのプレーを直接感じることができるはずでした。
「もし1年の延期がなく、そのまま開催されていたら、タイガー・ウッズ選手が来てくれていたかもしれませんね」とつぶやいたのは、川越商工会議所の竹澤穣治専務理事。確かに2020年なら大けがをする前でもあり、プレーを検討してくれていたかもしれません。
多くのトッププロが、少年時代に当時のスター選手を間近に見たことで、プロを目指すようになっています。子供たちが稲見萌寧の銀メダルを決めた瞬間や、松山英樹、ロリー・マキロイ、笹生優花、畑岡奈紗らのプレーを見て感動し、将来プロになるキッカケとなっていたかもしれないのです。
五輪は終わっても、無駄にしてはいけない“おもてなし”の準備とスキル
川越市商工会議所も、内外からの観光客をもてなすため、涙ぐましい努力を積み重ねていました。商店街へのバナーフラッグの掲出は、本来公共施設に限られるため無理だとされていました。しかし、いくつものハードルを乗り越え、全国に先駆けて初めて実現しました。
「オリンピックコンサートin川越」も4回開催。海外からの観光客へのおもてなしツールを用意し、「川越の魅力を世界に発信していこう!」と、積極的に取り組んでいたのです。
「世界から川越市に来てくれるたくさんの人に、英語で市内のご案内をする『都市ボランティア』の準備もしていましたが、無観客とコロナで断念することになってしまいました」(川越市総合政策部オリンピック大会担当部長・岡部 実氏)。
地元の人たちの想いや思惑とは違った形の五輪になったかもしれませんが、東武ホテルのスタッフが行ったトレーニングや、川越商工会議所が行ったおもてなしの準備を無駄にしてはなりません。感染拡大が収まり海外からの観光客が日本に戻ってくれば、今回身につけたおもてなしのスキルがきっと役に立つはずです。
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