松山英樹が初めて人前で発したネイティブ発音の英語と日米ゴルフ文化の話

2019年に活動拠点を米国から日本に移した筆者の舩越氏。すっかりアメリカンなゴルフライフに馴染んだ舩越氏にとって、どうしても気恥ずかしくて言えない言葉があるのだそうです。偶然にもそれは松山英樹がおそらく初めて公に発した英語だったと言います。

「Fore!」の発音は「ファー」でも「フォア」でもなく「フォー」

 今年10月のZOZOチャンピオンシップに出場するため、日本にやってきたメジャー2勝、通算5勝のコリン・モリカワが、こんなことを言った。

「海外に旅してゴルフをすると、自分のゴルフも旅をする」

曲げた方向を指差すジェスチャーもすっかり板についてきた 写真:Getty Images

 米カリフォルニアで生まれ育った日系米国人のモリカワは、プロ転向後は欧州はもちろんのこと、ドバイ、バハマ、そして日本やアジアにも旅をして、異国の地で数々の試合に出場している。今年の来日は彼にとって5度目の日本訪問。「日本のファンは最高。うどんと寿司は最高。コースも最高。とりわけグリーンが最高」と絶賛していた。

 興奮気味にジャパン・ラブを口にしていたモリカワを眺めながら、私は逆に、私自身が渡米したばかりの1990年代を思い出し、「なるほど、私のゴルフも旅をしたな」と秘かに頷いていた。

 日本を離れ、いきなり触れたアメリカのゴルフは、まさに驚きの連続だった。

 日本では、バブル時代に築かれた豪華絢爛なクラブハウスでビッグな朝食を取りながら人々と談笑し、それからコースに繰り出したものだが、アメリカの庶民的なゴルフには、そうした手順が一切ないことを知ったときは目が点になった。

 駐車場でシューズを履き替え、ゴルフバッグを自分で担いでプロショップへ行く。プロショップはクラブハウスとは別に併設されている小部屋や小建物であることが多く、そこで料金を支払えば、あとは1番や10番へ向かってスタートするのみ。

 クラブハウスへ入ることもロッカールームで着替えることもなく、ただプロショップに行くだけでスタート前の手続きは完了だ。

 トイレはプロショップ周りに設置されている。レストランはクラブハウス内だが、アメリカではスループレーが基本ゆえ、レストランに行くことはまずない。お腹が空いたら、プロショップの隣あたりで売っているホットドッグを買って、カートに乗りながら頬ばれば、それで良し。

 そんなアメリカのゴルフの手軽さと簡易さに私は最初は驚かされたが、やがてそれが当たり前だと感じるようになっていった。

 ショットが右や左に大きく曲がり、隣ホールの方向へ飛び出したとき、日本では「ファー!」と叫ぶものだと思っていたが、アメリカでは誰もが「フォー!」と叫ぶことにも最初は驚かされた。前方への注意を促すこの言葉、英語の綴りは「Fore」だから、発音をカタカナ表記すると「フォア」なのだろう。

 しかし、聞いた感じは「フォー」であり、右(right)前方注意なら「フォー、ライト!」、左(left)前方注意なら「フォー、レフト!」と叫ぶ。米ツアーの試合でも、選手やキャディが身振り手ぶりを交えながら「フォー、ライト!」「フォー、レフト!」と叫ぶ。

 渡米から間もなかった当時の私は、そんなアメリカのゴルフ英語の使い方を覚えたことが妙にうれしくて、ラウンド中、自ら「フォー、ライト!」と叫び、「うわっ、ちょっとアメリカン!?」と秘かに喜んでいた。

 それから20年近い歳月が流れ、松山英樹が米ツアーにやってきた。最初は、「英語は、なーんも分からないです」と言っていた松山だが、そう言いながらもゴルフ英語は自ずと必然的に身に付けていった。

 そんな彼が試合会場という公の場で初めて自ら口にした英語が、偶然にも「フォー、ライト!」だった。

 練習ラウンドの際、ドライバーショットが大きく右に飛び出したとき、彼は咄嗟に右手で右方向を指し示しながら、大声で「フォー、ライト!」と叫んだ。その発音がネイティブ的なナイスな発音だったことが、私にとっては少々驚きで、ちょっぴりうれしくも感じられた。

英語圏帰りのゴルファーが感じる気恥ずかしさ

 2019年に活動拠点を米国から日本へ移した私は、ほぼ四半世紀ぶりに日本のゴルフを楽しもうとゴルフ場へ繰り出した。

 立派なクラブハウスの前で丁寧なお出迎えを受け、フロントで受付を済ませると、小綺麗なロッカールームへ。そうした手順の何もかもが昔のままであることが、25年ぶりに日本に戻った私にとっては、とても懐かしく感じられた。

 誰かのショットが大きく曲がったとき、ハウスキャディの女性が甲高い声で「ファ~~~~!」と叫び、打った本人も同組の仲間たちも「ファ~~~~!」と叫ぶ光景も昔のままだった。

 しかし、この「ファー」だけは、今の私にはどうしても抵抗があって口にすることができない。帰国から3年が経とうとしている今でも、どうしても言えないでいる。

 なぜなら、「ファー」と発音すると英語で「遠い」を意味する「far」になってしまうため、「遠い~~~!」と叫んでいるように思えてしまって、違和感を感じるからだ。

 だからと言って、みんなが「ファー」と言っている横から私だけ「フォー、ライト!」と英語そのものを叫ぶのは、アメリカでは当たり前にやっていたことであっても、日本では何やら小っ恥ずかしい。

 結局、「ファー」も「フォー」も言えない私は、「あー、右だー!」などと口走るのが精一杯。日本からアメリカへ渡り、アメリカのゴルフに浸り過ぎた後に日本に戻ってきた私は、今、日本のゴルフ場で「迷えるゴルファー」と化している。

 モリカワが言った「ゴルフも旅をする」とは、こういうこと?

 いやいや、おそらく、ちょっと違う意味だろうと思いつつ、私はそんな旅の後遺症も「ええい、こうなったら楽しんでしまえ!」と秘かに開き直っている。

【写真】松山英樹がメーカー跨ぎの遍歴の末たどり着いたエースドライバーを見る

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