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- すごい展示なのに知られてなさすぎる! 実は敷居が高くないJGAゴルフミュージアム訪問記
歴史の勉強が好きだった人もそうでなかった人も、ゴルファーなら一度は訪ねてみてほしい博物館がJGAゴルフミュージアムです。いったいどんな施設と展示なのでしょうか。
日本を代表する名コース・廣野ゴルフ倶楽部内に
日本のゴルフの歴史を伝えるJGAゴルフミュージアムは、JGA(日本ゴルフ協会)の運営するゴルフの博物館です。スコットランドのR&Aワールドゴルフミュージアム、アメリカのUSGAゴルフミュージアムと並び、ここ日本にもゴルフ文化に関わる資料が幅広く集められ展示されています。
一部のマニアの間では誰もが知っている場所にもかかわらず、一般には馴染みが薄いことから訪問者の数も少なく、コロナ禍でも安心してゆっくりと楽しむことができます。
ちょっと敷居が高そうな“ゴルフの聖地”JGAゴルフミュージアムを訪ねました。
神戸市兵庫区の新開地駅から出ている神戸電鉄粟生(あお)線は、山間の曲がりくねった急坂を登るように走るローカル路線です。車窓からの新緑の風景を楽しみながら約1時間すると、駅名に“ゴルフ場”と付く「広野ゴルフ場前駅」に着きました。改札を抜け横断歩道を渡った目の前が廣野ゴルフ倶楽部の正門で、目的地のミュージアムはその敷地内にあります。
廣野と聞けば、ある程度のキャリアのあるゴルファーなら何度かは耳にしたことがあるはずの、日本を代表するメンバーシップクラブの1つです。そのイメージからすると、一般人には近寄りがたい場所にも思われますが、ミュージアムはクラブハウスと別棟のため、誰でも訪れることができます。
入館には電話予約が必要で開館が10時からとホームページには書かれていますが、実際には9時過ぎからでも入れ、予約がなくても門前払いされることはない、と物腰の穏やかな電話口の職員の方が教えてくれました。
当日は、クラブハウスの受付で入館料の200円を払い一旦外に出て、そこからはスタッフの方が案内してくれます。
見ものは「古代ゴルファー像のステンドグラス」
ミュージアム棟で最初に必要な儀式は、靴を脱いでスリッパに履き替えることです。館内に入り、棟の正門から正面にあたる階段の踊り場で出迎えてくれるのは「古代ゴルファー像」のステンドグラスです。この絵は、1350年に建てられたイギリスのグロースター寺院のステンドグラス画で、当時からゴルフがプレーされていた証と言われています。
展示されているのは、兵庫県出身のステンドグラス作家である立花恵津子さんが、オリジナルを写し取り制作したものです。オリジナルでは欠落している頭部の装飾をも再現しているとのことでした。
レジェンド宮本留吉の工房をリアルに再現
JGAゴルフミュージアムが、R&AやUSGAのミュージアムとならぶ展示施設だとはじめに書きました。
USGAゴルフミュージアムでは展示室が小部屋に分かれ、「ジャック・ニクラスの部屋」「ベン・ホーガンの部屋」「“ボブ”・ジョーンズの部屋」「アーノルド・パーマーの部屋」「ミッキー・ライトの部屋」というように、伝説のゴルファーたちの名前が付けられています。
ここ、JGAゴルフミュージアムには、日本の誇る「宮本留吉の部屋」があります。日本最古のゴルフ場、神戸ゴルフ倶楽部でキャディーとしてゴルフと出会い、日本で初めてプロとして米国に渡り、マスターズの創設者ボブ・ジョーンズとのゴルフに勝った逸話があります。賭けに勝って手に入れた5ドル紙幣に、ジョーンズからサインをもらったくだりは、宮本留吉の回顧録でも詳細に語られています。その本物のサイン入りの5ドル紙幣が、2階の階段に向かって左側のショーケースにあります。
日本プロゴルフに功績のあったレジェンドの1人として最初に殿堂入りした宮本は、晩年を関東地方で過ごし、「Tom Miyamoto」のブランド名でゴルフクラブを制作しました。当時の工房をリアルに再現した部屋が、1階の右側にあります。
ジョーンズから宮本への手紙のなかでは、パインハーストでのプレーが楽しかったこと、そして写真で見る宮本留吉のドライビングスタイルを褒めながら、5ドルを取られたのは当然だと書かれています。宮本工房に向かって右側の奥のショーケース下段の目立たない場所にその手紙がありますので、見落とさないようにしてほしいです。
ゴルフの歴史と文化を早回しで俯瞰するような展示
新宿御苑は、かつては昭和天皇のゴルフコースでした。現在園内にあるスターバックスの店内から、目の前に池が見えます。1987年に行われた改修工事の際に、池から300個のゴルフボールが回収された話は、テレビでも放映されました。
プリンス・オブ・ウェールズ(英国皇太子)が来日した際には、東京都内で摂政宮時代の昭和天皇との試合も行われました。米国を経由して英国を訪れた宮本とも、プリンスはゴルフをしています。それを仲介したのは、後の首相・吉田茂でした。
そんな、ゴルフが大好きだった昭和天皇が、指南役の大谷光明をはじめ、小栗海軍中将、西園寺八郎らと英国を訪問された際の記録写真や遺品も展示されています。
天皇陛下のゴルフの先生である大谷光明は、第1回日本オープンゴルフ選手権の優勝カップのデザインもしています。オリジナルのカップは、戦時中に行方が知れなくなりました。それを制作当時と同じデザインで復刻させたのが、皇室御用達の銀製品メーカーの老舗、宮本商行です。創業140年の宮本商行は、現在も銀座に本店を構えています。優勝カップは持ち回りですが、小型のレプリカが贈られます。宮本留吉の2つのレプリカのカップもミュージアムに寄贈された記録があります。
ゴルフ史の初期に活躍した方々の縦横無尽につながる人脈は語りつくせず、展示で讃えられている方々の縁者が、ミュージアムに貴重な品々を持ち寄りました。ここにある展示品の一つ一つが、どんなにお金を出しても手に入らない貴重な品々ばかりです。ゴルフ史がただひと時の思い出としてだけではなくて、時空を超えて現代にも脈々とつながっていることが展示品から理解できます。それが、JGAミュージアムが特別な場所である理由で、ゴルフが文化であることを深く感じさせる瞬間でもあります。
ゴルフ用具の展示を見たあとには実際に試してほしい
ミュージアムにはもちろん、遠くスコットランドから海を渡ってきた200年前のゴルフクラブをはじめ、現在に至るまでの数々のゴルフ道具も展示されています。道具の素材や形状がどのように変わってきたかが、歴史を追いながら確認できるのです。
その一方で、ただ一つ惜しいと思うことは、これらの展示品がショーケースの中に隔離され、手に取ることができないことです。保存の観点からは仕方のないことかもしれませんが、昔のゴルフクラブのグリップの太さや重さ、球の質感などは、実際に手に取ってこそ分かることも多く、そこが見るだけの資料の限界と言えます。
展示にあるような古い100年前の木で出来たヒッコリーのゴルフクラブは、愛好家の方々が今でも実際にゴルフ場でプレーに使用しています。一度、そうしたクラブで糸巻きのボールを打ってみてほしいです。芯を食ったときの無音に近い乾いた音や、抵抗のない打感の気持ちよさを実際に感じることで、このミュージアムの体験が完結します。
ゴルフとの関わり方は、ただスコアを縮めようとするだけではなくて、楽しみ方は無限に広がっています。歴史を訪ねることもその一つです。神戸にお越しの際には、訪問先の一つとしてJGAゴルフミュージアムを思い出していただければ幸いです。
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