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狙いはPGAツアーの“リブゴルフ化”阻止!? 世界ランキングがポイント改革で目玉の“ノーカット大会”に冷や水
世界ランキングをつかさどるOWGR(オフィシャル・ワールド・ゴルフ・ランキング)が12月21日(米国時間)、ポイント付与に関する2つのチェンジを、対象となる全ツアーに向けて発表。その内容は、出場選手80名以下の予選落ちなし大会では、優勝者にこれまでより多くのポイントを授ける一方、下位15%の選手たちへのポイント付与はゼロに。PGAツアーの“リブゴルフ化”を憂慮しての制度変更とも受け取れる。
ジョン・ラームのリブゴルフ移籍をOWGRが憂慮?
世界ランキングをつかさどるOWGR(オフィシャル・ワールド・ゴルフ・ランキング)が12月21日(米国時間)、ポイント付与に関する2つのチェンジを、対象となる全ツアーに向けて発表した。
「世界ランキング」「変更」と来れば、ゴルフ界ですぐさま連想されるのは、リブゴルフへのポイント付与という一件である。
しかし、OWGRは今年10月、すでにリブゴルフから提出されていたポイント付与の申請を正式に却下したため、リブゴルフは世界ランキングの対象外となっている。
だが、世界ランキング3位のジョン・ラームまでもが、ついにリブゴルフへ移籍したことを受け、「OWGRが前言を翻すのではないか?」「OWGRが何かを変更するのではないか?」と囁かれていた。
そんな噂の真っ只中で、突然、OWGRから声明が出されたことは、当然ながらゴルフ界を驚かせた。
しかし、声明の内容は、リブゴルフを意識したものではないことが分かった。そして、OWGRの今回の声明は、むしろPGAツアーの昨今の在り方や方向性に警鐘を鳴らしているようにとれる内容だった。
OWGRから発表された2つのチェンジは、2024年1月から施行されると記されている。
チェンジの1つ目は、予選カットなしのスモールフィールドにおけるポイント配分の大幅な変更である。
「出場選手が80名以下のノーカット大会では、優勝者にこれまでより一層多くのポイントを授け、下位15%の選手たちへのポイント付与はゼロとする」というもの。
これまで優勝者に授けられていたポイントは全体の17~18%だったが、24年からは21%へ増やされることになった。
そして、「下位15%の選手」とは、たとえば出場選手が80名の大会では、その15%に当たる12名という意味だが、その12名にはポイントが一切付与されないことになった。
2つ目のチェンジは、年間2勝を挙げた選手には60%増し、年間3勝以上を挙げた選手には70%増しのボーナスポイントを授けるというもので、年間勝利数によって世界ランキングのポイントが傾斜配分されるのは、世界ランキング史上初めてのこととなる。
シグネチャーイベントは「おいしい大会」のはずが…
これらのチェンジが24年からのゴルフ界にどんな影響を及ぼすのかと考えたとき、真っ先に思い浮かぶのは、PGAツアーが来季から展開するシグネチャーイベントだ。
いわゆるリブゴルフ対策として創設された賞金総額2000万ドル級のビッグイベントは、23年は「格上げ大会」と呼ばれていたが、24年からは「シグネチャーイベント」という名称に変わり、年間8試合が開催される予定である。
そのうちの3試合は、「タイガー・ウッズの大会」ジェネシス招待、「アーノルド・パーマーの大会」パーマー招待、そして「ジャック・ニクラスの大会」メモリアル・トーナメントで、これら「レジェンドの大会」は、従来通り36ホール後に予選カットが行われるため、今回のチェンジの対象外となる。
だが、レジェンドによる3大会以外のザ・セントリー(23年までの大会名はセントリートーナメント・オブ・チャンピオンズ)、AT&Tペブルビーチプロアマ、RBCヘリテージ、ウェルスファーゴ選手権、トラベラーズ選手権は、来季からは予選カットなしの形式に変更され、70~80名の出場選手が4日間72ホールをプレーすることになる。
それゆえ、この5大会は世界ランキングの1つ目のチェンジによって直接的な影響を受けることになる。
出場選手がトッププレーヤーのみに制限された少数精鋭のシグネチャーイベントは、PGAツアーが選手たちのリブゴルフへの流出を食い止めたい一心で、大枚をはたいて実施しようとしている大会シリーズだ。
破格の賞金を少人数で漏らさず分け合うという意味では、シグネチャーイベントは「とても、おいしい大会」のはずだった。
しかし、来季からは、下位15%に沈めば世界ランキングが1ポイントも稼げなくなるという意味では、シグネチャーイベントの旨味は半減してしまい、必ずしも「おいしい大会」とは言えなくなる。
PGAツアーのレジェンドによる3大会とシーズンエンドのプレーオフ3試合、それに欧州のDPワールドツアー選手権は、今回のチェンジの「対象外」と明記されており、従来通り、全選手に世界ランキングがフルに与えられる。
だが、シグネチャーイベントはPGAツアーが来季から開始する「目玉企画」であるにも関わらず、そのうちの5試合が大きな影響を受けるチェンジをOWGRが決めたこと、そして新シーズンからの実施に間に合わせるために、変更内容をせわしない年の瀬に大急ぎで発表したことは、OWGRがPGAツアーに対して「モノ申している」と考えるのが自然である。
急激な負担増により撤退するスポンサーも
果たして、OWGRはPGAツアーに何をいわんとしているのだろうか。
リブゴルフ対策と銘打って、賞金をひたすら高額化させ、出場選手を少人数に絞り、予選落ちのないノーカット大会へ変えたシグネチャーイベントは、どこからどう見てもPGAツアーの“リブゴルフ化”である。
しかし、リブゴルフからの申請を却下したOWGRとしては、PGAツアーや現在の世界ランキング対象ツアーにどんどんリブゴルフ化されてしまっては困るという事情がある。
以前からPGAツアーの大会を支えてきたタイトルスポンサーは、自分たちの大会がシグネチャーイベントに指定された途端、従来の経済負担に加え、総額2000万ドルの賞金まで用意しなければならなくなり、負担は一気に急増している。
そのため、伝統あるウェルスファーゴ選手権をスポンサードしているウェルスファーゴは、24年限りでタイトルスポンサーから降板することを決めた。
AT&Tは、来季からシグネチャーイベントとなるぺブルビーチプロアマに精力を注ぐ代わりに、テキサス出身のレジェンドの名が冠されているバイロン・ネルソン選手権からは撤退せざるを得なくなった。
リブゴルフを意識してPGAツアーの大会をリブゴルフ化させているというのに、そのリブゴルフ化が選手からもスポンサーからも喜ばれない状況を生み出しているのだとしたら、それは誰にとっても、あまりにも皮肉である。
2つ目のチェンジとなった年間複数回優勝を挙げた選手に対するポイント増量は、見ての通りの「ビッグスター育成策」である。
これまでは、年間何勝目を挙げた場合でも、1勝は1勝として単に優勝ポイントが授けられてきた。だが、2勝目、3勝目を挙げて波に乗る選手に割り増しの優勝ポイントを授けて突出させるほうが、その選手の輝きは一層、増して見えることになる。
「こんなにも勝利を重ねている強い選手なんだよ」「こんなにも優れた選手なんだよ」と言葉でアピールする代わりに、OWGRはより多くのポイントを授けることで、その選手の秀逸性を世間に訴えかけようとしている。
それは、世界ランキングの影響力や威力を示すとともに、スター選手を次々に奪われて賑やかさを欠いてしまっているPGAツアーやDPワールドツアーに、かつての活気を取り戻させるための支援策とも考えられ、ここでもOWGRはPGAツアーの未来を案じて手を差し伸べていると見ることができる。
今回のチェンジを発表したOWGRは「さまざまな検証を行った結果、選手たちのパフォーマンスを最も正当に評価し、世界ランキングをより良いものとすることができる」と声明に記している。
だが、その行間からは、PGAツアーの姿勢や動きに警鐘を鳴らしているOWGRからの「それぞれのツアーは独自のアイデンティティーを保ち、そこで戦う選手たちの主戦場を守ってほしい」という祈りのメッセージが聞こえてきているように感じられる。
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
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