- ゴルフのニュース|総合ゴルフ情報サイト
- 記事一覧
- ツアー
- “10番の悲劇”から13年 34歳になったマキロイがマスターズ制覇=グランドスラムのためにやったこと、“やらなかった”こと
“10番の悲劇”から13年 34歳になったマキロイがマスターズ制覇=グランドスラムのためにやったこと、“やらなかった”こと
いよいよ今週“ゴルフの祭典”マスターズが開幕する。マスターズウイークになると毎年話題の一つになるのが、ローリー・マキロイが悲願の同大会初優勝を遂げ、キャリアグランドスラムを達成するのかということ。マキロイは今年、例年とはスケジュールを変え、悲願成就に向けて万全の態勢で臨んでいる。
若いマキロイの心に深い傷を残した独走からの「80」
ゴルフファン待望のマスターズウイークがやってきた。昨年覇者ジョン・ラームの2連覇が達成されるかどうかに注目が集まる一方で、ローリー・マキロイの悲願が叶うかどうかが、今年も取り沙汰されている。
北アイルランド出身、34歳のマキロイにとって、今年のマスターズは16度目の出場となる。
そして、2011年全米オープンを皮切りに、12年全米プロ、14年全英オープン、同年全米プロを制してメジャー通算4勝を挙げ、マスターズ制覇を悲願に掲げるマキロイにとって、今週はキャリアグランドスラム達成を目指す10度目の挑戦となる。
しかし、彼のこれまでの戦績や歩みを見る限り、その可能性が「きわめて高い」とは、あまり感じられないところが、逆に人々の興味関心を引き付けているのかもしれない。
マキロイは14年全米プロを制覇して以来、今日までの10年間に合計36のメジャー大会に臨んだものの、メジャー5勝目はなかなか挙げられずにいる。
メジャー大会ではなくレギュラー大会に目をやると、欧州のDPワールドツアーでは今年1月にヒーロー・ドバイデザートクラシックでディフェンドに成功。栄えある大会2連覇を達成した。
その欧州2連戦後にPGAツアーにおける自身の24年シーズンをキックオフしたのだが、昨夏のジェネシス・スコティッシュオープンで勝利して以来、すでに半年以上、優勝トロフィーを掲げることは、いまなおできないでいる。
それでも、通算24勝のマキロイは、依然として世界ランキングは2位を堅持しているのだが、今年こそグリーンジャケットを羽織ることは、果たしてできるのだろうか。
マキロイが初めてマスターズに出場したのは09年大会だった。これまで15回出場し、予選通過は12回。オーガスタナショナルでマークしたスコアの平均は71.50となっている。
ベストスコアは「64」だが、その一方でワーストスコアは「80」。その「80」に涙したのは、彼が自身3度目のマスターズを迎えた11年大会だった。
首位を突っ走っていたマキロイは、ハーフターンするまでは「早くも初優勝か?」と期待されていた。
しかし、折り返し直後の10番でティーショットを大きく左に曲げ、彼のボールはコース外の民家の庭へ飛んでいった。そのホールでトリプルボギーを叩いたマキロイは、12番では4パットしてダブルボギー。そうやってガラガラと崩れていったマキロイは、「80」の大叩きで15位タイへ転落した。
あの大会の際、マキロイは両親をオーガスタナショナルへは呼ばず、代わりに幼馴染の友人やガールフレンドを呼んで、一緒に滞在していた。
その一団は、レンタルハウスの庭や家の前の道路で、毎晩サッカーボールを蹴ったり、大声ではしゃいだりで、近隣住民から騒音被害の声が上がっていたほどだった。
マキロイらの騒ぎ声が日に日に大きくなっていったのは、もしかしたらマスターズ初優勝への期待と興奮が膨らんでいっていたからだったのかもしれない。
だが、その挙句にサンデーバックナインでガラガラと崩れ落ちたことは、マキロイの心の大きな傷となった。
「最終ラウンドが終わった後、ローリーは深夜に電話をかけてきて、私と話しながら朝まで泣き続けた」
マキロイの父親ゲリーが、後に、そう明かしてくれた。
あのときの経験がトラウマになってしまったのか、その後もマキロイは、他大会では勝てても、マスターズだけは勝つことができないでいる。
上位フィニッシュは何度もあった。20年は5位タイ、22年は自己最高位の単独2位。しかし、昨年は2日目に「77」を喫して予選落ちとなり、言葉を発することもできないほどの放心状態でオーガスタナショナルから去っていった。
「1人のプレーヤーとして、やるべきこと、やりたいことがある」
若年化に拍車がかかる昨今のゴルフ界において、34歳のマキロイは、もはや若くはない部類に数えられる。
そんな中、マスターズ初制覇とキャリアグランドスラム達成の悲願を叶えることができる可能性が、年々小さく低くなっていくことは「もはや避けられない」と感じているマキロイは、昨年末ごろから、今年のマスターズを見据えた動きを見せ始めた。
昨年11月にPGAツアーの理事職を突然辞任したのは、その一環だった。
「僕には1人のプレーヤーとして、やるべきこと、やりたいことがある」
その「こと」が、マスターズ初制覇とキャリアグランドスラム達成を指していたことは誰の目にも明らかだった。
今年はじめには、マスターズまでの自身の試合出場数を例年より増やす計画を米メディアに明かした。
「これまでは毎年6~7試合に出場した後にマスターズに出ていたけど、今年はマスターズが僕にとっての今季9試合目か、10試合目になるようにしたい。そうすれば、マスターズのときに僕は今までよりシャープな状態になっているはずだ」
より多くの試合に出て、心技体をアップさせ、ベストな状態でマスターズへ。その言葉通り、今季はDPワールドツアーで2試合、PGAツアーでは6試合に出場。今季の9試合目の大会として、今週のマスターズを迎えようとしている。
3月には、自身の専任コーチではないブッチ・ハーモンを訪ね、スイングの状態を見てもらうことで「貴重なセカンド・オピニオンを聞くことができた」。
マスターズ前週のバレロテキサスオープンに出場したことは、マキロイのメンタルコーチであるボブ・ロッテラ博士によれば、「いろいろ考えてしまいがちなマインドをオフの状態にするためには、試合出場は効果的」とのこと。
ロッテラ博士いわく、「今、ローリーに求められていることは、スイングよりマインドを強くすることです」。
マキロイはそのバレロテキサスオープン開幕前の4月1日(月曜日)に、一度オーガスタナショナルに足を運んで練習ラウンドを行い、その足でテキサスの試合会場に向かった。
バレロテキサスオープン最終日には猛チャージを披露して今季の自己ベストとなる単独3位に食い込み、大会終了後は大急ぎでオーガスタナショナルに向かうことはしないそうで、「マキロイは2日(火曜日)の午後まで会場入りはしない予定だ」「水曜日恒例のパー3コンテストにも今年は出場しない」と米メディアは報じている。
さまざまな恒例行事があり、大勢のファンが待ち受け、世界各国からメディアも押し寄せるマスターズでは、自分のスケジュール通りに物事が進まないケースに直面することが多く、「去年はマスターズウイーク中、レンタルハウスでパズルをして時間を潰したこともあった」。
喧噪から離れ、時間を最大限に有効活用し、何もかもすべてを自分のため、悲願達成のために使いたい。
そんなマキロイの心は、ロッテラ博士が指摘するように、スイングよりも強くなることができるのかどうか。果たして16度目の挑戦でグリーンジャケットを羽織ることができるのかどうか。
そうやって考えれば考えるほど、マキロイへの興味関心は膨らむばかりだ。
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
最新の記事
pick up
ranking