予選は前年比69%アップも最終日は20%ダウン…マスターズ視聴率が物語るゴルフ界の“複雑な現状”

米国におけるマスターズのTV中継視聴率が報じられ、予選2日間の視聴率は前年比69%アップという驚異的な上昇だった一方、最終日の視聴率は前年比20%ダウンという低調な数字だったことが分かった。この乱高下が示唆するゴルフ界の複雑な現状とは?

PGAツアーとリブゴルフのトップが久しぶりに一堂に会した

 今年のマスターズがスコッティ・シェフラーの圧勝で幕を閉じてから数日後、米国におけるマスターズのTV中継視聴率が米メディアによって報じられた。

 ESPN局で放送された予選2日間の視聴率は前年比69%アップという驚異的な上昇だった。一方でCBS局による最終日の視聴率は前年比20%ダウンという別の意味で驚きの数字だった。

 なぜ、これほど両極端な結果になったのか。その背景には、現在のゴルフ界のさまざまな動きや事情が複雑に絡みあっていた。

昨年の優勝後にリブゴルフに移籍したジョン・ラームからグリーンジャケットを“奪還”したスコッティ・シェフラー 写真:GettyImages
昨年の優勝後にリブゴルフに移籍したジョン・ラームからグリーンジャケットを“奪還”したスコッティ・シェフラー 写真:GettyImages

 予選2日間の視聴率が大幅アップした最大の理由は、PGAツアーとリブゴルフ、双方のトッププレーヤーが久しぶりに一堂に会したからに他ならない。

 ここ2年ほどの間、PGAツアーの試合ではリブゴルフ選手の姿を見ることができなくなっている。しかし、オーガスタナショナルは「マスターズ出場資格さえ満たしていれば、どこのツアーの選手であってもウエルカム」という姿勢を示している。

 そのため、昨年のマスターズ覇者であるジョン・ラームや過去のマスターズ覇者であるフィル・ミケルソン、バッバ・ワトソン、ここ5年以内にメジャー大会を制したブライソン・デシャンボーやブルックス・ケプカ、キャメロン・スミスといったリブゴルフ選手たちが、PGAツアーやDPワールドツアーのトッププレーヤーたちと同じ土俵に上がった。

 王者タイガー・ウッズの登場も予選2日間の視聴率アップにつながった。ウッズは昨年のマスターズで途中棄権して以来、公式戦では一度も4日間72ホールを戦ったことが一度もなかった。そんなウッズが1年ぶりにオーガスタナショナルでプレーした姿に、世界中のゴルフファンが熱い視線を注いだ。

 初日にリブゴルフ選手のブライソン・デシャンボーが3Dプリント製のアイアンを握ってロケット発進し、2日目にはアーメンコーナーの13番パー5で斬新な攻略ルートを突き進むために巨大な案内看板を素手で引き抜くなど次々に話題を提供して大会を盛り上げたことは、すでにお伝えした通りである。

デイとガルシアの奇抜なファッションにも注目

 デシャンボーのみならず、ジェイソン・デイも予選2日間を盛り上げた。デイは、かつてはナイキの看板選手の1人だったが、今年1月からはストリート系ファッションブランド「マルボンゴルフ」と新たに契約。同社を創設したマルボン夫妻は、「ゴルフウエアはトラディショナル」という既成概念から脱却し、ファッション性の高いゴルフウエアを提供したいと願っているとのこと。

 しかし、デイがマルボンのウエア姿で試合会場に初登場した直後から、「パンツがダボダボ」「ダサい」「おじいちゃんのクローゼットから持ち出した服みたい」といった声がSNSで飛び交うようになった。

 そんな中、今年のマスターズ2日目にデイが着ていたベストがSNSで大いに取り沙汰された。「Malbon Championship Golf」という英語の文字がほぼ全面に大きく入れられていたベストのデザインが人々に違和感を抱かせた様子だった。

 PGAツアーでは、選手のウエアに入れるロゴマークの大きさは「3インチ×5インチ」(約7.6センチ×約12.7センチ)以内と規定されており、その制限内で控えめに入れられたロゴを見慣れている視聴者の目には、デカデカと入れられたマルボンの文字があまりにも大きく不自然に見えたのではないだろうか。

 デイは金曜日の早朝、第1ラウンドの残りホールをプレーしていた間は、このベストを着ていた。しかし、第2ラウンドが始まったときにはベストを着ていなかったため、「オーガスタナショナルからベストを脱げと言われたに違いない」という噂が広がった。

 そして、米メディアが第2ラウンド後のデイを直撃したところ、デイは「オーガスタナショナルのオフィシャルから『そのベストを脱ぐことはできますか?』と言われたので、僕は素直に『イエス』と答え、ベストを脱いだ。それぞれの試合には、それぞれの決まりがある。試合に出ている以上は、それぞれの決まりに従う必要があるからね」

 ガルシアの奇抜なカラーコーディネートも目を引いた。初日は緑のシャツと黄色のパンツで愛妻アンジェラも緑のタンクトップと黄色いミニスカート姿。そんなガルシア夫妻の「緑&黄色」の配色は大きな話題になった。

 SNSでは「キッチンスポンジみたい」などといった酷評、不評が相次ぎ、「そんなに奇抜なの?」「キッチンスポンジ見てみたい」ということで、マスターズ中継にチャンネルを合わせた視聴者は大勢いたことだろう。

 ガルシアいわく、「緑と黄色はマスターズフラッグの色だ。せっかく出場するのなら人々の目を引きたい」。ちなみに、2日目のガルシアは白いシャツと赤いパンツ姿だった。

「ファンが中継を見てくれなくなれば、僕らの存在は無意味」

 さて、最終日の視聴率が前年比20%ダウンとなった要因は何だったのか。その背景には、優勝者の人気が高いか低いかだけではなく、優勝争いの顔ぶれや展開、前年大会の展開との比較など様々な要素が絡み合っている。

 世界ランキング1位のシェフラーがマスターズで勝利することは、ある意味、「最も予想された順当な成り行き」だった。最終日のアーメンコーナーを過ぎたあたりでシェフラーの勝利がほぼ見え始めたことも、意外性を減少させ、それが視聴率ダウンにつながった。

 そして、昨年大会の最終日はラーム、ミケルソン、ケプカという3人のビッグネームの競り合いとなったおかげで高い視聴率を記録したのだが、その数字との比較になったからこそ、今年が相対的に20%の大幅ダウンを喫したことは「なるほど」と頷ける。

 予選を通過したウッズの決勝2日間が「完走」が目標という状況になったことは、視聴率的には、やはり大きな痛手だった。

 派手なウエアに身を包んだガルシアが予選落ちして姿を消し、予選2日間の立役者だったデシャンボーの優勝の可能性が徐々に縮小していったこと、そうやってリブゴルフ選手によるエンターテインメント性が減少してしまったことも、最終日の視聴率をダウンさせたのだと思われる。

 マスターズ翌週のRBCヘリテージ会場で開かれたPGAツアーの選手会では、メジャーリーグ関係者を招き、いかにしてファンを惹き付け、TV視聴率を向上させるかというテーマの講演が行われた。

 その講演に聞き入っていたトミー・フリートウッドは「僕たちはファン・ファーストの大切さを忘れていた。賞金がどれだけアップするかは僕らの関心事にすぎず、ファンの関心事ではない。ファンがTV中継を見てくれなくなれば、僕らの存在は無意味だということを知らされた思いがした」と感想を述べた。

 そんなセリフを耳にすると、「今さら? 今ごろ、そこですか?」と首をかしげたくなる。だが、PGAツアーが豊かすぎるほどに繁栄していた時代だけを眺めながら大人になった現在のPGAツアー選手たちは、フリートウッドが言った通り、自分たちの目の前に大勢のファンがいることを当たり前のように感じていたのかもしれない。

 今年のマスターズのTV視聴率の動きは、PGAツアー選手たちにとって大きな反省材料と気づきになった様子である。

「今さら」でも「今ごろ」でも、まだ手遅れではない。ファンを楽しませ、魅了することを最優先に考えるPGAツアー選手であってほしいと願う。

文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

【写真】これが物議を醸したデイとガルシアの奇抜なマスターズファッションです

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昨年の優勝後にリブゴルフに移籍したジョン・ラームからグリーンジャケットを“奪還”したスコッティ・シェフラー 写真:GettyImages
ジェイソン・デイのインスタグラム(@jasondayofficial)
セルヒオ・ガルシアのインスタグラム(@thesergiogarcia)
セルヒオ・ガルシアのインスタグラム(@thesergiogarcia)
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