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ウッズのライダー杯キャプテン辞退はPGAツアーの先行き不安の表れ!? “代打”K・ブラッドリーはリブゴルフ選手選出の可能性示唆
2025年ライダーカップのキャプテンが発表。タイガー・ウッズが務めるのではないかという大方の予想を裏切り、発表されたのはキーガン・ブラッドリーの名だった。このことがPGAツアーの先行きに垂れ込める暗雲の表れだとする見方の意味とは?
「チームUSAのキャプテンを務める余裕はない」
ライダーカップは、国と大陸の名誉をかけて戦う2年に1度の米欧対抗戦のこと。米国と欧州の交互で開催される形式で、次回は2025年9月に米ニューヨーク州のベスページで催される。
その2025年大会で米国チームのキャプテンを務めるのは「タイガー・ウッズに違いない」とは、ここ数年、世界のゴルフ界の暗黙の了解のようなものだった。
ところがライダーカップを主催するPGA・オブ・アメリカから7月9日(米国時間)に正式発表された内容は、「暗黙の了解」とは180度異なる内容だった。
米国キャプテンに指名されたのは、2011年全米プロを含むPGAツアー通算6勝の38歳、キーガン・ブラッドリーだった。
誰にとっても予想外だったこの人選に対する反響は多大で、今後、さまざまな方面に大きな影響をもたらすだろうと想像されている。
なぜ、米国キャプテンは、ウッズではなく、ブラッドリーになったのか?
まず、ウッズではなくなった理由は、一言で言えば、「ウッズが辞退したから」である。
そもそもウッズをライダーカップのキャプテンに据えることは、米ゴルフ界全体が以前から切望していたことであり、ウッズ自身も「米国を勝利に導きたい」と語っていた。
そのための準備として、ウッズは16年ライダーカップと17年のプレジデンツカップでアシスタントキャプテンを務め、19年にはプレジデンツカップのキャプテンを経験。それらはすべて、未来のライダーカップキャプテンになるための布石と思われていた。
そして、25年ライダーカップこそが「ウッズがキャプテンを務める待望の大会」となるはずだったのだが、ウッズは「多忙」を理由にキャプテンを辞退する声明を出した。
「PGAツアーの選手理事として新たな責任を担っている今、僕にはチームUSAのキャプテンを務める余裕はない」
ウッズのこの言葉は、あれもこれも引き受けて「虻蜂取らず」になってはいけないというウッズの責任感の強さの表れだと評価する向きはある。
だが、米欧の選手たちが「メジャーで優勝するより、ライダーカップで勝つことのほうが大きい」「ライダーカップで戦うために僕はプロゴルファーになった」と語るほど重要視されているライダーカップの栄えあるキャプテン業を辞退せざるを得ないほど、ウッズのPGAツアーにおける選手理事業は「そんなにも多忙を極めているのか?」「そんなにも行き詰まっているのか?」といった懐疑的な見方が強まり、PGAツアーの先行きを案じる声があちらこちらで広がっている。
ウッズはPGAツアーとサウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」との交渉を進めるためのタスクフォースの主力メンバーでもあり、ライダーカップキャプテンを辞退したことは「PIFとの交渉が、それほど難航していることだろうか?」と案じる声も聞こえてくる。
さらに言えば、ウッズが辞退したことを米ゴルフ界がそのまま受け入れ、「いやいや、タイガー以外にはキャプテンは考えられない」「タイガー、考え直してくれないか?」といった声が上がらなかったことは、ウッズの存在感が小さくなりつつあることの一種の証とも言えそうである。
スピース、JT、ザック・ジョンソンらがブラッドリーを選んだ理由
さて、ウッズが辞退したことで、それならば誰をキャプテンに指名すべきなのかを検討し、答えを出したのは、米国の「ライダーカップ・タスクフォース」なるものだった。
このタスクフォースは、14年大会でキャプテンを務めたトム・ワトソンの采配やリーダーシップが物議を醸した後、フィル・ミケルソンなどの米国チーム選手たちが中心となって創設したライダーカップ特別対策班だ。
そして今回、プレーヤー3名(ジョーダン・スピース、ジャスティン・トーマス、ザック・ジョンソン)、PGA・オブ・アメリカのオフィサー3名で構成されるタスクフォースは「25年ライダーカップのキャプテンはキーガン・ブラッドリーが適任だ」という結論を出した。
この発表を聞いて誰もが驚いたと思うが、一番驚いたのはブラッドリー本人だった。
というのも、ブラッドリーは23年の前回大会で米国チーム入りが叶わず、涙を飲んだ苦い経験があったため、そのぶん余計に「えっ!? そんな僕がいきなりキャプテン?」という驚きを覚えたのだ。
ブラッドリーは12年と14年にライダーカップに出場し、13年にはプレジデンツカップで戦った実績がある。
そして23年は年間2勝を挙げ、ライダーカップの米国チーム入りを狙っていた。しかし、ポイントランキングのトップ6入りを僅差で逃したブラッドリーは、キャプテン推薦による残り6名に選ばれることを信じていた。だが、当時のキャプテンだったザック・ジョンソンは、ジャスティン・トーマスやリッキー・ファウラー、ジョーダン・スピースなど、決して好調ではないものの、日ごろから仲良しの選手たちを指名し、ランキングでは彼らより上位にいたブラッドリーだけがチームから外された形になった。
ジョンソンのキャプテン推薦の内容は「単なる仲良しクラブだ」と批判が高まったが、そんな中、ブラッドリーは12年大会で敗北した際に大会側から支給されたライダーカップ記念スーツケースの写真に複雑な胸の内を添えて、SNSにこうつづった。
「これは12年大会でもらって、まだ一度も開いたことがないスーツケースだ。ライダーカップで戦って勝利するまでは決して開けないと心に誓っている。今年もこのスーツケースは閉じたままになる。でも僕は、背後から全力で米国チームを応援する」
ライダーカップに馳せるブラッドリーの切なる想いが溢れ返っていたこの投稿は、大勢のゴルフファンの琴線に触れ、みんなの記憶に留められていたのだと思う。
ウッズがキャプテンを辞退したとき、タスクフォースの面々の心にも留められていたその記憶が一気に蘇り、「25年キャプテンはキーガン・ブラッドリーが最適だ」という結論に至ったのだろう。
「PGAツアー選手かリブゴルフ選手かにかかわらず最高の12名を選ぶ」
そんなブラッドリーがキャプテンを務めることで、25年大会で米国チームが勝利できるかどうかはさておき、すでに大きな注目を集めているのは、早々に会見に臨んだブラッドリーのこんな発言だった。
「僕はキャプテンとして、米国チームにとってベストな12名を選ぶ。PGAツアー選手か、リブゴルフ選手かにはかかわらず、最高の12名を選んで、最強の米国チームを構成するつもりだ」
すでに欧州側は、主力となるはずのジョン・ラームがリブゴルフへ移籍したことを受け、25年はリブゴルフ選手を含めたチーム編成を考え始めている。
米国側もブラッドリーがキャプテン推薦によってリブゴルフ選手をチーム入りさせるとなれば、メジャー4大会のみならず、ライダーカップでも、リブゴルフ選手たちの活躍を目にする機会が増えることになり、そうした傾向が「いずれはPGAツアーにも広がるのではないか?」という期待の声が広がりつつある。
PGAツアーはリブゴルフへ移籍した選手たちのメンバーシップを停止したまま、依然として出場を認めていないのだが、ブラッドリーがライダーカップのキャプテンを務めることが、PGAツアーの方針をも変えるきっかけになったら、ブラッドリーはゴルフヒストリーに残る歴史的キャプテンになることだろう。
それにしても、ライダーカップの勝敗予想より、そうした周辺の話ばかりが取り沙汰されていることは、それこそPGAツアーの先行き不安の何よりの表れと言えそうである。
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
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