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- 優勝はく奪“15本裁定”のその後 ――黄アルムが語った「仲裁に進めなかった理由」と再出発
女子ゴルフの“15本裁定”で優勝を失った黄アルムが胸中を告白。再協議や仲裁に進めなかった現実と悔しさを語りつつ、海外冬季ツアー参戦など再出発への覚悟を明かした。
「仕方がないことだと思って、受け入れました……」。
電話口で黄アルムはそう語った。声のトーンは落ち着いていたが、そこに“納得”の響きはなかった。
国内女子ステップ・アップ・ツアー最終戦「京都レディースオープン」(11月、京都・城陽CC)。藤井美羽とのプレーオフを制し、優勝をつかんだはずの一戦は、“クラブ15本”による2罰打で一転して逆転負けとなった。
あの裁定から時間が経ったいま、黄アルム本人はこの出来事をどう受け止めているのか――。電話インタビューで率直な心境を語ってくれた。
証言と食い違っていた裁定の説明

まずは、何が起きていたのかを改めて整理しておきたい。
優勝が決まった直後、ラウンド後のクラブ確認の過程で「本人の所有物ではないクラブが1本入っていた」とされ、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)競技委員会は、ゴルフ規則4.1b(14本のクラブ制限)に基づき、プレーオフ1ホール目に一般の罰(2罰打)を付与。黄のスコアを訂正し、結果は藤井の優勝とされた。
JLPGAが示した裁定の骨子はこうだ。プレーオフ開始時に本数確認が行われておらず、プレーオフ2ホール目終了後に超過が発覚するまで「黄のキャディーバッグにそのクラブが入っていなかった事実は確認できない」。そのため「黄はプレーオフ1ホール目から15本でプレーしていた」と判断した、というものだった。
だが、その後の取材で聞かれた関係者の証言からは、違和感も残っていた。
取材で分かったのは、15本目のクラブが最終日に同組だった奥山純菜のピッチングウェッジだったこと。ただ、同組だった黄アルム、藤井、そして試合に帯同していた1人のキャディーを含め、「いつ、どのタイミングで入ったのかを誰も目撃していない」と証言していた。
一方、JLPGAが公表した文章では、「キャディーが最終18番ホールでクラブの入れ間違いがあったと証言」と断定的に記されている。この点について、現場にいた関係者の間で「推定で決められたように感じた」との声が上がったのも無理はないだろう。
“推定”で決められたことへの悔しさ
黄自身も当時、強い悔しさをにじませていた。インスタグラムに直筆文を投稿し、「クラブが見つかったのはプレーオフ後、バッグを下ろしたあとだったこと」「空白の時間に何が起きたか分からない中で“推定”による裁定が下されたこと」「再協議を求めたが却下されたこと」を訴えた。
大会後、JLPGAは公式に裁定内容を発表したが、現場で起きていた出来事と、その説明との間に食い違いがあることは前述の通りだ。
裁定直後、黄アルムはJLPGAに再協議を求めた。しかし、その要望は通らなかった。優勝が認められず、ステップ・アップ・ツアー優勝者として得られるはずだったファイナルQT出場資格も失われた。プロゴルファーとしての今後に直結する、極めて重い判断だった。
「推定で物事が決められたことに、悔しさしか残りませんでした。再協議を何度もお願いしましたが、聞き入れてもらえなかった。一度でも、もう一度きちんと協議してもらえたら、という気持ちはありました」
それでも裁定は覆らなかった。
「“ペナルティーも実力”という考えは、私もずっと持っています。競技委員の話を聞いて、受け入れなければいけない立場なのも分かっています。でも今回は、優勝したと思った直後、5分か10分で取り消されてしまって……そのあと自分では何もできなかったことが、すごく悔しくて、悲しかったです」
日本スポーツ仲裁機構へ進めなかった現実
オフは韓国で過ごしている黄アルム。大会後、日本スポーツ仲裁機構(JSAA)への申し立ても検討していた。
「周囲の関係者や選手の意見を聞いて、JSAAに仲裁を申し立てようと動きました。期限が“21日以内”だと聞いて、その間、力になってくれた人も多く、何とかしようと必死でした」
仲裁を申し立てるには、21日以内に仲裁申立書を提出し、代理人を立てる場合は委任状も必要となる。つまり、その期間内に“事実関係を裏付ける書類”を揃える必要があった。特に重要だったのが、当日帯同していたキャディーの証言だったという。
「キャディーさんの自筆の署名で、当日何があったのかを書いてほしいと、ゴルフ場にお願いしました。内容証明も送りました。でも、『教えることはできない』という返事が来たんです」
やり取りはゴルフ場側の弁護士を通して行われ、「所属キャディーの個人情報は第三者に提供できないこと」「裁定やルール適用に関する事項はJLPGAの管轄であるため、協会に直接問い合わせてほしい」との書面が届いた。その間にも、時間は刻一刻と過ぎていった。
「弁護士を通すと、どうしても時間がかかります。ゴルフ場と1対1でもギリギリなのに、そこに弁護士が入ると、21日以内という期限には間に合わないと感じました」
最終的に、仲裁に必要な書類は揃わなかった。
「書類がなければ、私が『不当だ』と言っても、何も持っていくことはできないですよね。どうすることもできませんでした……」
裁定後、JLPGAや関係者から公式・非公式の説明やフォローはあったのか。そう尋ねると、黄アルムは短く答えた。
「ありません。何も、です」
KLPGAから冬の海外ツアー3試合に推薦
大きな失意の中でも、黄アルムは前を向こうとしている。韓国女子プロゴルフ協会(KLPGA)からは、冬季に海外で開催される「KLPGAドリームウィンターツアー」(計3試合)への推薦が届いた。
「『台湾モバイルレディスオープン』(12月17~19日)、『インドネシア女子オープン』(1月30日~2月1日)、『フィリピンレディスマスターズ』(2月4~6日)の3試合すべて推薦してもらいました。本来なら私に回ってくるものではなかったと思いますが、今回の件があったので、協会の方々が気にかけてくださった部分もありました」
台湾の試合では予選落ちを喫したが、「実戦感覚は失っていない」と前を向く。来季は韓国2部ツアーを主戦場としながら、日本ツアーのマンデー(予選会)や本戦出場も狙うという。
「いま私にできることは、それしかありません。2部でやりながら、日本のマンデーにも出ていく。そして日本の1次QTを突破する。それで結果を出すしかないと思っています」
「まだまだゴルフがしたい」
ゴルフの状態については、ショットの感触自体は悪くない一方、体の変化を強く感じているという。
「昔は柔軟性でゴルフをしていましたが、年齢とともに体が固くなってきました。前と同じスイングができないので、体の管理にはすごく気を付けています」
現在のドライバー飛距離は約240ヤード。「一度落ちましたが、体を戻してからはまた良くなっています」。
最後に、いまの気持ちを聞いた。
「正直、いろんなことが一度に起きすぎて、気持ちが追いつかない部分もあります。でも、ゴルフをやめるという考えはありません」
裁定は覆らず、優勝もQTも失った。それでも競技を続ける意思は変わらない。
「今は、目の前の試合を一つずつやっていくしかないと思っています。まだまだゴルフをしたいです」
“15本裁定”は過去の出来事として扱われつつある。しかし、その影響は今も選手の人生に重くのしかかっている。それでもゴルフ人生が終わったわけではない。黄アルムは現実を受け止めながら、次のティーイングエリアへ向かう。
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