ブッシュに打ち込んでも揺れなかった心
8番までに通算18アンダーとして追走する松山英樹との差を一時は5打まで広げたが、バックナインに入って失速。ティーショットがフェアウェーをとらえられなくなり、どんどんスコアを伸ばしているローリー・サバティーニ(南ア)や、同じ最終組の松山の影がちらつく状況に追い込まれた。

一番のピンチは14番だった。パー5のこのホールで、ティーショットを大きく右に曲げてブッシュの中に打ち込んでしまう。ボールは何とか見つかったが、とうてい打てる場所ではなく、アンプレヤブルの処置をして1打罰でレイアップ。4オン、2パットのボギーを叩いてしまう。
一方の松山は、見事に2オン。イーグルパットこそ決まらなかったが、バーディーを奪って差は1打に縮まった。
オリンピックの金メダルがかかる大詰め。スコアを伸ばしたいホールでのボギーは痛手だが、シャウフェレが崩れることはなかった。続く15番、16番をパーで切り抜けると、17番で値千金のバーディー奪取。追う松山が15番ボギーで一歩後退し、その後もスコアを伸ばせない中、マイペースを貫いた。
シャウフェレと松山は、今年のマスターズでも最終日の最終組で激突している。4打差でのスタートだったが、15番を終えた時点でその差は2打と緊迫する場面があった。続く16番パー3でシャウフェレがトリプルボギーを叩いたことで松山は楽になる。結局、松山はそこから2打、後退しながら何とか逃げ切った。だが、オーガスタの仇を日本で、ではないが、今回の戦いはシャウフェレに軍配が上がった。
シャウフェレの母は日本との縁が深い。日本育ちの台湾人で、祖父母は今でも東京で暮らしている。孫のザンダーも来日経験は少なくない馴染みの国。今回も祖父母に会うことを楽しみにしていたが、コロナ禍でかなわなかった。代わりに、金メダル獲得という大きなプレゼントをもたらしたことになる。
スイングコーチを務める仏独ハーフの父、ステファンさんは、勝者が“キング・オブ・アスリート”と呼ばれる十種競技の選手。だが、ドイツでオリンピック出場を目指していた頃、飲酒運転のドライバーにはねられ選手生命を絶たれている。
27歳の息子は、父の夢を、最高の形でかなえた。今年のマスターズ優勝は叶わなかったが、誰よりもオリンピックの金メダルを欲した男に、勝利の女神はほほ笑んだ。