「長年、俺や軍団を見続けてきたお前ならいいよ」
松山英樹が登場するまで、日本ゴルフ界最強のプレーヤーと言えば「ジャンボ尾崎」こと尾崎将司でした。しかし、生涯現役を貫いている限りは自らについて多くを語らないというジャンボ本人の考えから、その人となりに迫った書籍等は、その名声に比して限りなく少なかったのも事実です。
しかし、このたびジャンボ軍団の一員である金子柱憲(よしのり)が師匠を近くで見続けた立場から、その実像に迫るジャンボ公認本『誰も書けなかったジャンボ尾崎』(主婦の友社刊)を上梓しました。

では、今まで頑なに自らについての本を出すことを拒んできたジャンボが、どんな経緯でそれを許可するに至ったのでしょうか?
12月21日に出版記念イベントを行った著者・金子によると、もう数年前からジャンボについての本を書きたいと切望していたものの、今まであまたあった企画が実現に至らなかったことからなかなか本人に切り出せずにいたそうです。
それがちょうど1年前の2020年冬、意を決して思いの丈をジャンボにぶつけたところ、拍子抜けするほどあっさりと、次の言葉をもらえたのだそうです。
「長年、俺や軍団を見続けてきたお前ならいいよ」
この言葉から始まった執筆は、金子のジャンボへの思いを刻み込むように、最強のプレーヤーとしてのジャンボから最高の指導者としてのジャンボの姿、そして人間・ジャンボ尾崎まで、縦横に書き綴ることになりました。
自分が優勝争いをしていても弟子の練習に深夜まで付き合う

そして、ジャンボに直接師事した金子だから書けた指導者・ジャンボの凄さは、原英莉花、笹生優花、西郷真央といった現代の“ジャンボ・チルドレン”の活躍が必然だと思わせてくれるものです。
同書の中から一部を抜粋します。
〈(前略)(編注:ジャンボ自身の)試合中にもかかわらずジャンボからお呼びがかかり、ジャンボの部屋でバットスイングをしたこともありました。その時、ジャンボの順位は上位だったと思います。
私は翌日のことを考えてジャンボに気を遣い、早めに終わろうとすると「チューケン、やりたくないのか?」と言われ、困惑したことを覚えています。私の意に反して、ジャンボは翌日のことなど微塵も考えておらず、真剣に向き合ってくれ、私のバットスイングにじっと目を凝らしていました。
結局、その晩は10時半まで1時間半ほど素振りが続いたのです。〉
勝利に対してもっと貪欲であったであろう全盛期に、自らが優勝争いをしている時でさえ、弟子の指導に多くの時間を割くことをいとわない。気難しい“王者”のイメージとはかけ離れた、ジャンボの温かみのある人となりが立ち上がってくるエピソードです。
試合に出れば勝っていたという印象のジャンボ尾崎の黄金期を知る世代にも、“ジャンボ・チルドレン”の活躍からジャンボの偉大さを知った世代にも、一度手に取ってみてほしい本です。