皆が刻むホールでもドライバーで攻めた蝉川泰果
ここ最近、金谷拓実や中島啓太がアマチュアながらもプロが出場するトーナメントで優勝したことで、「アマチュアがプロの試合で優勝してもおかしくない」という空気が漂い始めているのかもしれない。
数多くのアマチュアが出場した今年の「関西オープンゴルフ選手権」でも、虎視眈々と優勝を狙うアマは少なくなかった。もちろん、いざ試合が始まると、そう簡単にアマチュアが上位に顔を出すわけにもいかず、改めてプロとの差を実感したのではないか。

そんな中、大会2日目を終えて通算11アンダーの単独首位に立ったのが、21歳の蝉川泰果だ。東北福祉大の4年生で今年は主将を務めるという。
そんな蝉川の武器は、何といってもドライバーショットだろう。開催コースのよみうりカントリークラブ(兵庫県)はアップダウンが激しく、フェアウェイも狭い。
多くの選手が3番ウッドやユーティリティー、もしくはアイアンでティーショットを刻む中、蝉川は6番パー4以外、ドライバーをブンブン振り回す。372ヤードの7番パー4では、4日間ともドライバーで1オンを狙いにいったほどだ。
しかし、飛距離が出ればそれだけ曲がる危険もある。最終組で回った最終日は思い通りにボールをコントロールできず、77を叩き、通算3アンダーの17位タイ終わった。
この日スコアを崩すきっかけとなったのは、ドライバーを持ち続けた7番のティーショットだった。「右から左へ風が吹いていると思いましたが。左から右への風だったので、ボールが右に流されてしまし、OBになってしまいました。ただ、それを覚悟でドライバーを持っているので、悔いはありません」と潔い。
このホールをダブルボギーとし、8、9番も連続ボギー。前半で40を叩き、優勝争いから脱落した。「最終日は手堅くいこうとして、本来の攻めるゴルフに徹し切れませんでした」と反省する。
次戦の出場トーナメントは来月開催の「ダイヤモンドカップ」
前半叩いたことで心がかなり折れかかっていたが、ハーフターンのときに気持ちを切り替えた。「ティーショットはよかったんですが、パッティングがことごとくカップに嫌われました」というように、ラインの読みとタッチが合わずに苦しんだ。
「目の前の優勝争いに加われなかったことは残念ですし、注目されて期待されていたのに、それに応えられなかったのは悔しいです」と振り返る。
今回、優勝争いを演じたのは比嘉一貴と星野陸也だが、どちらも持てる力をすべて出して戦った好勝負だった。普通のアマチュアなら、それを間近で見ることができただけでもよしとするところだが、蝉川にその考えはなく、あくまでも自分が勝つつもりだったからこそ、悔し涙が止まらない。
ラウンド後のインタビューでは最初こそ気丈に振る舞っていたが、ラウンドを振り返るうちに徐々に涙がこぼれ始める。取材が終わって一人になってもしばらくは嗚咽が止まらなかった。逆に言うと、それだけ勝つ自信もあったのだろう。
インタビューでは「パワー的には通用していると思いますので、この経験を今後に生かしたいです」と前を向いた蝉川。次回は5月12~15日に開催される「ダイヤモンドゴルフカップ」に出場予定だが、そこで今回の借りをきっちり返すつもりだ。
蝉川 泰果(せみかわ・たいが)
2001年1月11日生まれ、兵庫県出身。ゴルフの名門、東北福祉大ではゴルフ部主将を務めている。2022年ナショナルチームメンバー。2022年関西オープンでは2日目に首位に立つなど、アマチュアでのツアー優勝が期待される逸材。