「“いい人”すぎるイメージが時に疲れることもありました」
今季限りで日本ツアーから引退することを決めたイ・ボミ。来日間もない頃から、韓国ツアーと同様“スマイル・キャンディー”の愛称で親しまれ、2015年、16年の賞金女王になると、その人気は爆発的なものに。「日本で一番愛された韓国人」と表現されることさえあったボミは、日本でのツアー生活で何を感じ、何を考えたのか。そして今、思うことは? 独占インタビューで大いに語ってくれた。
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これだけ長く日本で生活したり、いろんな人と接することで、例えば「韓国っぽさ」が抜けたとか、性格が変わったとか、そういう部分はありますか?
「日本人がとても謙虚で相手を気遣い、人に迷惑をかけないようにするのは知ってはいましたが、来日してからはそれが特によく感じられるようになりました。韓国では少し違っていて、相手は少し迷惑かもしれないと思っても頼み事を言ってみたりする。それで頼まれた側もそれを引き受ける、というような文化があります。日本に来て、人と接するときの“さじ加減”や“距離感”のようなものは、生活をしながらすぐに慣れました。それが日本人のマナーやエチケットだと感じますし、日本の良さでもあると感じます」
日本にいると一人で食事する飲食店もありますが、韓国にはそう多くない印象です。ボミさんは一人で食事に行ったりすることはありますか?
「さすがに外で一人では食事はできません(笑)。もちろん家で一人で食事することはありますが、だからといって、大勢で集まるのもそこまで好きではないです(笑)。気心知れた人たちと一緒にいるのが気楽でいいです」
ボミさんは誰にも分け隔てなく、笑顔で接するイメージがあります。ファンサービスもたくさんされてきたと思いますが、人当たりの良さは元々の性格なのでしょうか?
「プロゴルファーという職業は多くの人に見られる仕事ですし、人と接する仕事でもありますよね。ですから、なるべく笑顔でいようというのはありますが、誰にでもいい顔をしているのではありません(笑)。私にいい感じで接してくれる人にはたくさん声をかけるようになりますし、自分に敵対心を向けたり、嫌な事をする人がいたらもちろん遠ざけます(笑)」
人がいいと言われるボミさんも人間ということですね(笑)。
「一つ後悔していることを挙げるなら、“イ・ボミはこんな人”というイメージができすぎてしまったことかもしれません(笑)。ゴルフ場ではもちろん笑顔でいることやファンサービスも相手の気持ちを考えよう心掛けたことで、結果的にプラスのイメージがたくさんつきました。ファンだけでなく、スタッフや協会関係者、メディアの方までみんながよくしてくれたことには本当に感謝しています。ただ、“いい人”すぎるイメージが、時に疲れることもあったりしましたよ。私もミスショットしたり短いバーディーパットを外したりして機嫌が悪い時もありますから、泣いたり怒ったりすることもあるんです」
それでも来日当初から今まで、変わらずその通りのイメージでいると思います。
「例えば、ゴルフファンが描いているイ・ボミというイメージがあるとして、そのイメージは崩さないようにしたいとは思っています。なぜなら、見ている人はそんな姿を期待して試合を見に来ていると思うからです。いつもそうしてベストを尽くそうと思って会場にいました」
“魅せる”ことも仕事と捉えているわけですね。
「今季で日本ツアーは引退ですが、選手生活自体もそこまで長くはないので、私と出会う人がたくさんのパワーをもらってくれればとてもうれしいですね」
「ゴルフ雑誌に私の顔が並んでいることが衝撃でした(笑)」
プレー面では2015、16年に2年連続賞金女王やツアー初の年間獲得賞金2億円超え(2015年)なども印象的ですが、その他に何か思い出すことはありますか?
「日本ではコンビニに雑誌コーナーがありますよね。すごく記憶に残っているのは、賞金女王になった頃、ゴルフ雑誌に私の顔がたくさん並んでいることがかなり衝撃でした(笑)」
たくさんの雑誌の表紙になったということですね。
「韓国は週刊誌が少なく、月刊誌がほとんどです。当時は私を表紙にしてくださる出版社がたくさんありましたし、取材もたくさん受けた記憶があります。そんなに取材されるのは好きじゃないんですけれどね(笑)。韓国人の私をこれだけ大きく扱ってくれることに驚きもありますし、今でもとても感謝しています。あと、韓国でも人気の『クレヨンしんちゃん』に出させてもらったのも思い出ですね」
そういえば契約ウエアの「マーク&ロナ」でも木村拓哉さんとCM出演されていましたね。
「そうなんですよ! 自分でも本当にすごいことだと思っています。同じ契約ウエアのクミちゃん(金田久美子選手)が木村拓哉さんと仲が良くて、それで間に入ってもらって一緒にゴルフの話やショッピングの話をしました。韓国でも本当に人気のある方でしたから、まさかこうして一緒にお仕事をすることになるとは思ってもいなかったので、すごくいい経験をさせてもらいました」
他にこれから日本で実現させたいこと、やりたいことは何かありますか?
「6月に富士山に登る計画を立てています。一度は挑戦したかったので、今からすごく楽しみにしています。こうして合間に少しずつリフレッシュする時間をつくってこられたのも、日本ツアーで10年以上戦い続けられた要因かなと思います。途中でコロナ禍もあったりして、下手をすれば、うつ状態になっていたかもしれないと思うことはあります」
日本に来てからメンタル的につらいことも多かったということですか?
「たくさん優勝できたことはいいことかもしれませんが、少し成績が出なければ否定的に書かれたりもします。私だけでなく多くのプロアスリートたちは、多かれ少なかれストレスを抱えていると思います。有名な歌手もコンサートが終わって家に帰ると、もう何もできず動けなくなると聞きます。私も試合で優勝した日は最高の気分ですが、ホテルに戻ると本当に疲れきってすぐに寝てしまいます。翌朝になったら優勝はもう過去のこととなり、また日常が始まる。当たり前のことなのですが、それはそれで気分的に変な感じになったりもするんです」
そうした過去があっての“今”だとも思います。
「その通りですね。がんばってきた結果、こうして今も推薦で試合に出場させてもらえますし、こうしてメディアの取材オファーも来るので、いろいろなことに感謝してこれからも人生を楽しんでいきたいです」
ちなみに家で料理する機会は増えましたか?
「いまは日本と韓国を行ったり来たりしながら、練習場に行ったりトレーニングもしているので、週に1回くらいしかできないんです。でもテンジャン(味噌)チゲやキムチポックム(豚キムチ炒め)などはさっとつくれますよ。あ、お好み焼きはマネージャーがつくり方を教えてくれて、おいしく食べましたよ」