銀メダリスト・稲見萌寧に受け継がれた“北谷津の魂”
五輪女子ゴルフの初日、16位タイで好発進した稲見萌寧が「楽しく回れました」と笑顔を輝かせたとき、私の脳裏には今は亡き千葉晃プロの姿が浮かび上がり、千葉プロがジュニア育成に人生のすべてを注いだ北谷津ゴルフガーデン(千葉県)の土屋大陸社長にすぐさま電話をかけた。
千葉プロは、まだ日本のゴルフ界でジュニア育成のシステムや施設が皆無に近かった1990年代から大勢の子どもたちを指導してきたジュニア教育の先駆者だった。
ちょうどそのころ、日本でゴルフの書き手としてスタートした私が、初めて取材させてもらったプロゴルファーが実を言えば千葉プロで、以後、交流を持たせてもらっていた。
「オイラはよう、日本の子どもたちを世界で戦えるゴルファーに育てたいのよ。そのためには本物の芝の上から球を打たせてやれる環境を作りたいのよ」
べらんめえ口調で口癖のようにそう言っていた千葉プロは、1970年に開場された北谷津のショートコースに手を入れて、天然芝が施された立派な18ホールのショートコースを擁する北谷津ゴルフガーデンとジュニアゴルフミーティングを28年前に創始した。
千葉プロの温かい人柄、千葉プロと志しを共にしていた土屋社長や浦東大人プロといった仲間たちによる指導体制、充実した練習施設の評判はじわじわ広がっていき、未来のプロゴルファーを目指す子どもたちが北谷津に集まってきた。
横尾要、池田勇太、市原弘大らが巣立っていった北谷津に、小学5年生だった稲見がやってきたのは2011年のこと。土屋社長は当時の稲見を、こんなふうに振り返ってくれた。
「夕方、一般のお客さんがいなくなった後、萌寧は小さな砲台グリーンの上下左右、いろんな場所を目がけて黙々と練習していました。同年代の男の子たちと一緒に練習することが多かったのですが、閉店の22時の最後の最後まで残っていたのは、いつも萌寧でした。感情を表に出さず、胸に秘めるタイプ。見ていないようで、なんでもちゃんと見ている大人の目線の持ち主でした」