トーマスとウッズ、チャーリーは“3兄弟”のような関係性
全米プロ最終日を首位から7打差で迎えたジャスティン・トーマスが、着々とスコアを伸ばし、初優勝を目指す若者たちの混戦状態を突き破り、ウィル・ザラトリスとの3ホールのプレーオフを制して大逆転優勝を飾ったわずか数分後。

2017年全米プロ優勝に続く、大会2勝目、メジャー2勝目、ツアー通算15勝目を挙げたばかりのトーマスが、スマホに耳を当て、満面の笑顔で誰かと話をする様子を目撃した一部の米メディアは「早々にタイガー・ウッズから祝福コールがかかってきた」と報じた。
実を言えば、これは大いなる勘違いだったようで、この祝福コールの主はウッズではなくトーマスのエージェントだった。
しかし、米メディアがそんな勘違いをしてしまうほど、ウッズとトーマスは親しい間柄にある。ウッズの長男チャーリーくんもトーマスを兄のように慕っている。
ウッズは46歳、トーマスは29歳、チャーリーくんは12歳。偶然ながら、ウッズとトーマスは17歳差、トーマスとチャーリーくんも17歳差ということで、それぞれが「年の離れた兄弟」のような不思議な関係性を持つ3人は、家族同然というほど仲が良い。
ウッズとトーマスの支え合いと友情は、これまでお互いの大いなる励みになってきた。
そして、トーマスがサザンヒルズで挙げた見事な全米プロ2勝目の陰にも、やっぱりウッズの存在と励ましがあった。
ウッズと同じ言葉でどん底からの再起を誓った
ウッズに憧れながらプロになったトーマスが、いつ、どうやってウッズの親友になっていったのか。そのきっかけは、PGAツアーにデビューしたトーマスが、故郷ケンタッキー州を離れ、ウッズの豪邸があるフロリダ州ジュピターに居を構えたことだった。
「ご近所さん」となったウッズとトーマスは、一緒に練習や食事をしているうちに不思議なほど気が合うことをお互いに感じ取り、双方の自宅を行き来し合うようになっていった。
ウッズの長男チャーリーくんがトーマスに懐き、トーマスもチャーリーくんを可愛がってゴルフの練習相手になってあげているうちに、家族ぐるみの付き合いへと発展していったそうだ。
ウッズが4度目の腰の手術を受け、長いリハビリ生活を経て戦線復帰を目指していた17年の秋ごろ。ウッズの自宅の裏庭にあるショートゲーム練習場で、小技のフィーリングを失いかけていたウッズの練習に長時間、辛抱強く付き添っていたのはトーマスだった。
18年11月のツアー選手権でウッズがカムバック優勝を遂げ、19年4月のマスターズを制して完全復活をアピールしたとき、誰よりも喜び、フロリダで祝賀会を開いたのもトーマスだった。
ウッズは「家族や友人がいてくれたおかげで再び優勝できた」と語ったが、その「友人」の筆頭は、間違いなくトーマスだった。
そのトーマスが、昨年1月のセントリートーナメント・オブ・チャンピオンズの試合中、パットを外した怒りに任せ、差別的な言葉を口にして、長年のスポンサーからウエア契約を解消されたとき、すぐに謝罪声明を出すようトーマスに助言したのは、それまで何度もスキャンダルを潜り抜けてきた百戦錬磨のウッズだった。
その翌月、トーマスは最愛の祖父ポールを病気で失い、悲嘆に暮れていた。
それからさらに数週間後、ディナーのお誘いをトーマスにメールしてきたばかりだったウッズが交通事故を起こして瀕死の状態にあるという一報を耳にしたとき、トーマスは人目もはばからず、大粒の涙をボロボロこぼした。
一命をとりとめたウッズを最初に見舞った選手は、やっぱりトーマスだった。
3月のプレーヤーズ選手権では、ウエア契約を失ったトーマスがロゴ無しのシャツ姿で戦って勝利を掴み取り、感極まって号泣した。
「ゴルファーである前に、一人の人間でありたい。人間として成長したい」
それは、4度目の腰の手術を経て復活優勝を果たした際にウッズが口にした言葉と、まったく同じだった。
「タイガーの域に達するにはやることが150項目くらいある」
あれから1年2カ月もの間、トーマスは勝利から遠ざかってきたが、ことあるごとにウッズ家を訪れ、彼の右足の回復状態をチェックしては一緒に練習を行なってきた。
今年のマスターズが復帰第1戦となったウッズにとって、ともに練習を行う相手はトーマス以外には考えられず、月曜日も水曜日も、ウッズはトーマスとオーガスタナショナルを回った。
復帰2戦目となった全米プロの開幕前、サザンヒルズのバンカーの砂の中に無数の小石や貝殻が含まれていることに気付いたウッズは、溝が深いウェッジに持ち替える必要性を感じ、トーマスにもそれを伝え、トーマスもスピンをかけやすいウェッジに持ち替えた。
そんなウッズの助言が、トーマスの勝利に具体的に直接的にどこまで役立ったのかは分からないが、助け合い、切磋琢磨し合う2人がいるからこそ、たとえ困難に直面しようとも、彼らは強くあることができる。
とはいえ、ウッズとトーマスは、歯が浮くのような讃え合いや褒め合いをするわけではない。ユーモラスで、ウィットに富んでいて、少しばかりシニカルな言葉のキャッチボールをお互いに心の底から楽しんでいる様子だ。
右足の状態が悪化し、3日目の夜に棄権を表明したウッズは、最終日を戦わずしてサザンヒルズから去った自分に代わってトーマスが頑張ってくれることを切望し、激励の電話をかけてきたという。
「気分はどうって僕がタイガーに尋ねたら、タイガーは『キミの名前がリーダーボードを降下してしまったから、気分は最悪だよ』と答えた。そうやってタイガーが励ましてくれたおかげで、僕は奮起し、最終日を乗り越え、プレーオフに勝つことができた」
ゴルフにおいても、励まし方においても、自分はウッズの足元にも及ばないとトーマスは言う。
「僕がタイガーの域に達し、タイガーからグチャグチャ皮肉を言われないようになるために、僕がやらなきゃいけないことは、あと150項目ぐらいある。今日、僕が6番でシャンクしたことも、しばらくの間、タイガーから、あれこれ言われるだろうね」
気の置けない仲間がいることは、ウッズにとってもトーマスにとっても大きな幸運であり、宝でもあるのだろう。
「キミがいてくれたから僕が勝てた」
そう言える相手が、自分の傍らに、いるか、いないか。それは、戦う以前から勝敗を分ける、とても重要な要素なのではないだろうか。