「日本選手権」ならぬ「弐本選手権」って何? 不自由さを楽しむ粋なゴルフが静かな盛り上がり

ゴルフの原点に近い昔ながらの木製シャフトのゴルフクラブ2本だけでスコアを競う大会「弐本選手権(ヒッコリーゴルフ大会)」が、日本ヒッコリーゴルフ協会主催のもと初めて開催されました。

たった2本のヒッコリークラブでプレー

「ゴルフを心底楽しみたい!」そう考える“達人”ゴルファーたちが、ゴルフの原点に近い昔ながらの木製シャフトのゴルフクラブ2本だけでスコアを競う大会が誕生。その名も「弐本選手権(ヒッコリーゴルフ大会)」が、日本ヒッコリーゴルフ協会主催のもと初めて開催されました。会場は三重県の津カントリー倶楽部です。

筆者はウォルター・ヘーゲンのような華麗なゴルフを目指しているが先は長い 写真:林郁夫

 このユニークなイベントの始まりは、「日本→弐本(2本)→two→ツー→津」という参加者(最前列左)の方の洒落の効いた思いつきからだと聞きました(笑)。その真偽はともかく、津カントリー倶楽部の雰囲気は何よりもヒッコリークラブでのプレーにピッタリなのです。

 落ち着いた雰囲気のクラブハウスのエントランスには、クラシックなオープンカーをはじめ随所に歴史を感じさせる調度品が置かれ、100年前のヒッコリーゴルフの時代にタイムスリップしたような錯覚を覚えます。

 今回、たった2本のヒッコリークラブでゴルフをプレーしてみようというイベントが開催されるまでには、多くの愛好家の方々の取り組みがありました。

装いもクラシックな「弐本(にほん)選手権ヒッコリー大会(津カントリー倶楽部)」の参加者の皆さん 写真:今西隆史氏提供

昔は55本のクラブを駆使してプレーした人もいた!?

本数規制ができる直前の1938年のケネススミス製のセットは17本(筑波学園ゴルフクラブにて撮影) 写真:林郁夫

 ゴルフに使用できるクラブの本数が14本以内と定められたのは1939年のことです。

 歴史を遡り19世紀のスコットランドでも、ゴルフのさまざまなシーンを想定し、用途に合ったクラブが工夫されつくられていました。水辺に転がった球を打ちやすくする櫛(くし)状のクラブや、馬車の轍に入った球を打つための小ぶりなヘッドのクラブなどです。

 クラブの種類があまりにも増えすぎ、1859年の全英アマチュアゴルフ選手権に出場した選手が、55本のクラブを2台のリアカーに積んで競技をした記録もあります。

 ゴルファーのスコアへの飽くなき追求が使いやすいクラブを次々と生み出してきたわけですが、コースに持ち込むクラブの本数が増え続けると、プレー自体を純粋に楽しめなくなる弊害もあります。

 ゴルフをPlayする(遊ぶ)のはゴルファーなのに、いつの間にか道具が主体になり、どこかおかしな“ゴルフ”が生まれました。現代のゴルファーに置き換えても、14本のクラブをすべて使いこなしているのは限られた上級者の方だけで、一般ゴルファーにはほとんど使わないクラブが何本かはバッグにあるはずです。

ミスをするのが前提だからチャレンジを促すポイント制を採用

筆者は二本オープンの会長セベケン氏と事前に練習ラウンドを重ねたが、本番では力を発揮できなかった 写真:林郁夫

 そんな過剰でおかしな“ゴルフ”を一旦リセットし、アマチュアゴルファーがゴルフ本来のPlayの楽しさを取り戻そうとする企画は、実は10年以上前から行われていました。P1(ピーワン)選手権や、二本オープンなどです。

 パター1本でゴルフをプレーする「P1(ピーワン)選手権」は、ゴルフが生まれたばかりの頃の楽しさを体験する目的で生まれたと言います。また、パターともう1本のクラブだけでプレーする「二本オープン」は、クラブの本数を制限する他に、スコアにポイント制を採用することで挑戦する楽しさをより体感できるのです。

 これらは、どちらも関東地方にお住まいの愛好家の方々が始められ、SNSゴルファーのコミュニティーを通じて広まりました。

 これらのゴルフ競技は、一般によく知られるストロークプレーではなく、ポイント制で競われることが多いです。ストロークプレーがミスショットを避けるように守りのゴルフになりがちなのに対して、ポイント制のゴルフは挑戦のゴルフです。

 現代テクノロジーの粋を極めた扱いやすいモダンゴルフクラブでのプレーでは、ミスショットの原因はプレーヤーの技術不足に帰結します。一方で、クラブの本数が少なく、素材が洗練されていない100年前の素朴なクラブでのゴルフでは「成功は自分の手柄、失敗はクラブのせい」という、いい意味で都合の良いゴルフが楽しめます。

 ミスショットが前提にあるため、ポイント獲得のためにリスクを承知の上でターゲットを狙うという、ゴルフ本来の楽しさを極めるプレーが可能になるのです。

ビンテージクラブを自らレストアして使う楽しみ

クラシックな調度品に囲まれ、落ち着いた雰囲気の津カントリー倶楽部。エントランスには、クラシックカーも展示されている 写真:林郁夫

 ヒッコリーゴルフの楽しさはプレーだけにはとどまりません。真新しいヒッコリーゴルフクラブを手に入れることも可能ですが、真の楽しみはビンテージにこそあります。プレーに適した状態の良いビンテージのヒッコリークラブは入手すること自体が難しく、多くは傷んだ状態のクラブを入手しレストアするところから始まります。アイアンヘッドのサビを落としたり、グリップに巻かれている皮を丁寧に取り除き巻き直したり、木製シャフトのささくれを取り、油を塗って保護するというのが基本的な作業です。

 そうして自分で手をかけてレストアしたビンテージのヒッコリークラブを、ゴルフコースで実際に試してみると、「当たった! 飛んだ!」というだけでも感激はひとしおです。その感覚を共有している方々は、クラブを見せ合うだけでも一瞬で友達になります。ヒッコリーコミュニティーの方々は、スコットランドの羊飼いの気持ちを持った方々の集まり(?)なのでしょう。

 津カントリー倶楽部のイベントで初めて出会い、生まれたばかりのヒッコリーコミュニティーの方々。ニッチなヒッコリーゴルフの限られた情報を共有しながら楽しんでいらっしゃる様子は微笑ましく、コミュニティーはさらに大きな広がりを見せています。

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初めての津カントリーはタフでした。是非とも再挑戦したい! 写真:林郁夫
雄大な眺望の広がる津カントリー倶楽部のコース。弐本のクラブには厳しいか 写真:林郁夫
バンカーに入った球をウッドやパターで出そうと試みるが、距離感が難しく”往復ビンタ”をくらう 写真:林郁夫
複数の攻略ルートが置かれ、プレイヤーに判断の余地を残した戦略的な津カントリー倶楽部のコース 写真:林郁夫
視覚的にもプレッシャーを感じさせる、特徴ある石積の壁 写真:林郁夫
花菖蒲がプレー中の気持ちを和ませてくれる 写真:林郁夫
ランチの鯛めしも美味しくいただきました 写真:林郁夫
(遂にヒッコリーシャフトが折れました。今度は自分でシャフト交換にも挑戦したい 写真:林郁夫
通称“Dr.ヒッコリー”、クラフトマンでゴルフ史研究家としても知られる松村氏とのラウンドを楽しんだ 写真:林郁夫
スタート前にプレーする0番ホール、ホールアウト後にプレーする19番ホールがある、ユニークな津カントリー倶楽部 写真:林郁夫
19番ホールに挑戦するセントアンドリュース出身のアレックス・ブルース氏 写真:林郁夫
ヒッコリーゴルフ協会会長のアンドリュー・トムソン氏も19番に挑戦 写真:林郁夫
参加賞は大塚和徳さんの書籍とボビー・ジョーンズのパネルでした 写真:林郁夫
筆者はウォルター・ヘーゲンのような華麗なゴルフを目指しているが先は長い 写真:林郁夫
装いもクラシックな「弐本(にほん)選手権ヒッコリー大会(津カントリー倶楽部)」の参加者の皆さん 写真:今西隆史氏提供
本数規制ができる直前の1938年のケネススミス製のセットは17本(筑波学園ゴルフクラブにて撮影) 写真:林郁夫
筆者は二本オープンの会長セベケン氏と事前に練習ラウンドを重ねたが、本番では力を発揮できなかった 写真:林郁夫
クラシックな調度品に囲まれ、落ち着いた雰囲気の津カントリー倶楽部。エントランスには、クラシックカーも展示されている 写真:林郁夫

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