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昨年の“ロッカー破壊”でブーイング浴びながらクラークが優勝 ラームらはクラブを“投げる・蹴る”… 選手の危機的モラル
昨年の全米オープンで予選落ちし、名門オークモントのロッカーを破壊したことで非難を浴びたウインダム・クラークが、ブーイングに耐えながら大会2勝目。一方でジョン・ラーム、ホアキン・ニーマンのリブゴルフ勢がクラブを“投げる・蹴る”醜態を見せ、物議を醸した。
ニーマンはウェッジを“50ヤード”投げて2罰打
屈指の難コース、シネコックヒルズが舞台となった今年の全米オープンは、32歳の米国人選手、ウインダム・クラークが、全米オープン2勝目を完全優勝で飾り、幕を閉じた。
勝敗が決するまでのクラークは、本来なら「2023年全米オープン覇者のクラーク」と呼ばれて然るべき存在だった。
しかし、初日から首位を走り始めたクラークには、彼の過去の栄冠ではなく「オークモントのロッカーを破壊したクラーク」という枕詞が付され、シネコックヒルズのギャラリーからは優勝争いの真っ只中でも野次や嘲笑が投げつけられた。過激な野次を飛ばして、ポリスから退場を命じられたギャラリーも数人いたほどだった。
だが、そもそもコトの始まりは、昨年の全米オープンで予選落ちしたクラークが、怒りに任せて伝統あるオークモントのロッカーを破壊するという信じ難い行動を取ったことにあり、クラークは野次を飛ばしたギャラリーに対して「態度が悪いぞ」などと言えるはずはない。

グッドショット、グッドパットには、拍手がまばらどころか、ブーイングも起こり、ミスショットには大きな拍手。挙句に「バンカーに入れ!」とまで言われたが、クラークは、何を言われても反応せず、怒らず、自分のゴルフに徹し、勝利をつかんだ。
そんなふうにクラーク勝利の陰では、彼の過去のマナー違反とその影響が、終始取り沙汰され続けていたのだが、一方で、怒りに任せてクラブを投げたホアキン・ニーマンのマナー違反行為が今年から導入された「新ルールに反する」と判定され、2罰打を課された騒動が大きな話題になった。
さらには、明らかなマナー違反を行なったジョン・ラームには2罰打が課されず、ノーペナだったことも、大いに取り沙汰された。
チリ出身でリブゴルフ選手のニーマンは、初日の6番でOBを連発後、次打も深いフェスキュー群につかまって窮地に陥った。
ニーマンはフェスキュー群の中にあった自分のボールのそばに「ファイアアンツ(ヒアリ)の巣がある」と主張し、無罰救済を求めた。だが、ルール委員は救済処置を認めず、その裁定に腹を立てたニーマンは、目撃したというボランティアの話によると、「手にしていたサンドウェッジを50ヤード先まで投げた」。
その行為が、行動規範を定めた新ルールに反すると判定されたニーマンには、金曜日の朝、順延されていた第1ラウンドの残りを終えた時点で「2罰打を課す」と通告され、6番のスコアは「9」から「11」へ、第1ラウンドのスコアは「76」から「78」へ修正させられた。
「新ルール」と言っても、突然制定された目新しいルールというわけではなく、その原型は、USGAやR&Aが発行するゴルフルールに2019年に記された。JGAが発行する日本語のルールブックにも、もちろん記載されている。
「ルール1.2b」。英語では「Code of conduct」、日本語では「行動規範」とあり、「委員会はローカルルールとして採用する行動規範の中にプレーヤーの行動についての委員会独自の基準を規定することができる」とし、「その基準の違反に対する罰を含めることができる」「重大な非行に対してプレーヤーを失格とすることもできる」と記されている。
もう少し分かりやすい言葉で説明すると、「選手には、ゴルフの精神に基づき、マナーやエチケットを守ってプレーすることが求められる。だが、選手がその基準に反した行動を取った場合は、大会主催者(ルール委員会)が罰打を課したり、失格にしたりすることができる」という内容である。
しかし、今から7年前にそう記されたものの、このルールに基づいて実際に罰打や失格処分が課されたことはなく、ある意味、このルールは形骸化していた。
ラームはドライバーを“ドリブル”するも罰打はなし
ところが、昨今は選手のマナー違反が目立つようになり、とりわけ昨年はPGAツアーでもメジャー4大会でも、クラブを投げたり折ったりといった選手たちの「非行」が多々、目に付いた。その中でも、ロッカーを破壊したクラークの行為は最も酷い「非行」だった。
そうした事態を重く見たということなのだろう。メジャー4大会の主催者は、今年から行動規範への違反、マナー違反に対して、「2罰打あるいは失格」というペナルティーを実際に課すことを決め、ローカルルールとしての導入・実施を開始した。
今年4月のマスターズでは、ドライバーをクーラーボックスに投げ入れたセルヒオ・ガルシアと、グリーンに向かって中指を立てたロバート・マッキンタイヤが、罰打こそ課されなかったものの、警告処分となった。
そして今回の全米オープンでは、ニーマンがこのルールによって2罰打を課された初の事例となった。
ニーマンのコーチを筆頭とするチーム・ニーマンは、「ニーマンには違反行為を何度も繰り返すという継続性は見られない。2ペナは酷すぎる」「目撃者がリブゴルフ選手のニーマンのことを好きか嫌いかといった主観や先入観によって、目撃談のトーンは変わるのではないか?」と抗議し、2罰打の撤回を求めた。しかし、USGAはきっぱり却下した。
ところが、2日目のラウンド中、ティーイングエリアからフェアウェイ方向へ歩き出す際に、まるでボールを蹴るかのようにドライバーを蹴りながら歩いたジョン・ラームにはこの新ルールは適用されず、ラームはノーペナルティーのままになった。
ニーマンがサンドウェッジを投げた場面の画像はなかったが、ラームがドライバーを蹴った場面は、しっかり映像に収められていた。「それなのに、なぜラームには2ペナが課されない?」といった疑問や批判の声が、SNSでは噴出。
その「なぜ」に対するUSGAからの回答はなかったのだが、ラームはノーペナでも予選落ちするスコアだったため、2ペナを課してカットライン以下の順位がさらに下降したとしても、そこには、もはや意味がないという判断だったのではないかと米メディアは見ており、私もそうなのだろうと思っている。
まるで昭和の“校則”のようなロッカールームの掲示
それにしても、こんな新ルールを導入しなければならないゴルフ界の現状は、少々情けないと感じられてならない。
ルールブックに「行動規範」と記されているだけでは効果がないと判断されたからこそ、メジャー4大会の主催者は、今年から「2ペナ」「失格」といった具体的なペナルティーを示した上で、この規定をローカルルールとして導入することを決めたのだ。
マスターズでは2名の選手に対する警告だけで終わったが、米メディアによると、全米プロの舞台となったアロニミンクのロッカールームの壁には、行動規範に違反する行為が一つ一つ書き出され、リスト化されて貼り出されていたという。
その内容は、「クラブを投げること」「クラブを蹴ること」に始まり、「他人に対して、肉体的暴力や言葉の暴力を行なうこと」というのもあった。
さらには、「ラウンド中に携帯電話を使用すること」「ヘッドフォンなしで音楽を聴くこと」「キャップを逆さまに被ること」といった記述もあったそうで、思わず苦笑させられた。
世界のトップ中のトップである選手たちが出場するメジャー4大会の会場で、ゴルファーとして、一人の人間として、当たり前の事柄をわざわざ書き記して提示し、罰則まで設けなければ徹底できないという判断が下されたのだとすれば、それはゴルフ界のモラルが、恐ろしいほど低下していることを物語っているのではないだろうか。
少々、危機的状況である。
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
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