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ゴルフに出会わなければ「刑務所の中にいたと思う」 復活V ジェイソン・デイの壮絶な生い立ちと亡き母の大きな愛
PGAツアーのAT&Tバイロン・ネルソンで2015年全米プロ覇者のジェイソン・デイが5年ぶりの復活優勝を遂げた。人懐こい笑顔と温厚な性格で知られるデイだが、ゴルフに出会い、プロを目指して打ち込む選択をしていなければ「刑務所に入っていたかもしれない」というほどの壮絶な生い立ちを持つ。そんな中でもデイを支え続けたのが、昨年他界した母・デニングの大きな愛だった。
「ジェイソン・デイ、WD(棄権)」母のがんを知らされ歩くこともままならず

あれは、17年2月のマッチプレー選手権の真っ只中だった。メディアセンターで「ジェイソン・デイ、WD(棄権)」のアナウンスが流れ、私は何が起こったのかを確かめたくて、メディアセンターを飛び出した。
すると、マネージャーやキャディーに抱きかかえられるような恰好で、よろよろしながらクラブハウス方向へ向かって歩いていたデイ一行に出くわした。だから、彼の棄権の理由は、病気かケガなのだろうと思っていた。
しかし、数分後。会見が開かれ、壇上にデイと彼のマネージャーが座った。そして、デイは、母親デニングが母国の病院で末期に近い肺がんと診断されたことを、なんとか語った。だが、そこから先は泣き崩れ、もはや言葉にならなかった。
彼のマネージャーが「ジェイソンは12歳のとき、父親も肺がんで失っている。だから……」と補足した。
それから数日後。デイは母親を米オハイオ州の自宅に呼び寄せた。そして、州内の病院で手術を受けたデニングは、一度は元気を取り戻し、母国へ帰って職場にも復帰した。
母の回復に安心したせいか、デイもゴルフの調子を取り戻し、18年には年間2勝を挙げた。
だが、その後は持病の腰痛が悪化し、成績もランキングも、みるみる降下。優勝からも優勝争いからも遠ざかり、デイの存在感は薄まる一方になっていった。
折しもデニングの病状は徐々に悪化。デイは再び母親を米オハイオ州の自宅に呼び寄せ、母の余命をデイと彼の家族全員がみんなで支えた。
しかし、昨年3月、デニングは5年間の闘病生活の末、65歳の若さでこの世を去った。
「母は僕に、生きるために大切なことを教え、生きるために必要なものを授けてくれた」
デイと愛妻エリーは、病気や貧困で苦しんでいる人々を救うための財団を設立。たくましく生きる姿勢を母親から学んだデイは、デニングがこの世を去ってからも「今でも僕は彼女の心とともにある」と言う。
「再び頑張る姿を見せることが、僕のために尽くしてくれた母に報いること」
そんなデイが、先週のAT&Tバイロン・ネルソンで見事な逆転勝利を挙げ、通算13勝目を飾った。5年ぶりの勝利は、奇しくも母の日となった。
「昨年、母が亡くなってからは、試合に出て戦うことがつらく感じられていた。でも、再び頑張る姿を見せることが、僕のために尽くしてくれた母に報いることなのだと思い、それからはノンストップで向上に努めてきた。この勝利は、母の死後、初めて挙げた優勝だ」
そこまで言って感極まったデイの目に涙が溢れた。だが、彼の周囲には、愛妻エリーと長男ダッシュを筆頭に4人の子どもたちがいて、涙声になった父親を優しい眼差しで見守っていた。愛妻エリーのお腹の中には、もうすぐ生まれてくる5人目の子どももいる。
幼くして最愛の父親を亡くし、その後は貧しさの中、大きな愛で育ててくれた母親も失ったデイだが、今の彼は新しい家族の愛に包まれている。
「あの子が健康でハッピーで、ありのままの自分でいれくれたら、それでいい」
いつか母親デニングが言っていた通り、心と体の健康を取り戻し、幸せな家庭を築いたデイは、AT&Tバイロン・ネルソンの表彰式で喜びの笑顔を輝かせていた。
その笑顔は、いつぞやのバーベキューランチで見た笑顔とそっくりの爽やかな笑顔だった。ありのままの彼の姿に戻ったデイは、これから彼らしいゴルフで再び世界の頂点を目指す。
その傍らで天国のデニングは「世界一なんて目指さないでいい。ヘルシーでハッピーでいてくれたら、それでいいのよ」と、笑顔で囁くのではないだろうか。
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
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