昔はシャフトが「くるみの木」!? 100年前の道具でプレーする「ヒッコリー・オープン」挑戦記 | e!Golf(イーゴルフ)|総合ゴルフ情報サイト

昔はシャフトが「くるみの木」!? 100年前の道具でプレーする「ヒッコリー・オープン」挑戦記

現代の道具はドライバーはチタンやカーボンのヘッドにカーボンシャフト、アイアンもシャフトはスチールかカーボンが当たり前ですが、昔はウッドのヘッドは木製、なんとシャフトすら木製の時代もあったことをご存じでしょうか。

“温故知新”古い道具でプレーする新しいゴルフ

 4月21日(木)、年に一度の「ジャパン・ヒッコリー・オープン」ゴルフ大会が、兵庫県の神戸ゴルフ倶楽部で行われました。今回で5回目の開催となります。

新支配人の神谷さん(右端)と記念撮影する参加者の皆さん、衣装もお洒落 写真:林郁夫

 ヒッコリーゴルフの日本一を決めるこの大会は、秋にスコットランドで行われる世界大会への出場者を決める大事な大会でもあります。

「オープン」の大会名通り、すべての人に参加資格がある真に開かれた大会です。筆者はこれに出場し、日本一を目指して参りました。

 ヒッコリーとは、シャフト(クラブの棒の部分)がくるみの木で出来ているゴルフクラブです。現代のゴルフクラブのシャフトは、スチールやカーボン素材ですが、100年前にはこのような木のシャフトしかありませんでした。

 ゴルフをされない方は「ゴルファー」という人種をひと括りにしているふしがあります。しかし実際には、ゴルファーにはさまざまな人種がいて、共存し棲み分けています。プロゴルファーとして競技ゴルフに人生を賭けている方から、お洒落なファッションに身を包み楽しい様子でSNSを賑わしている方々まで、ゴルフの志向はさまざまで、皆それぞれの仕方で楽しんでいます。

 その一つで、メインストリームからかなり外れたところに生息し、全世界でにわかに増殖しているのが、100年前のゴルフクラブを使ってクラシックな雰囲気を楽しみながらゴルフをしている人たちです。たまたま出合った「ヒッコリーゴルフ」に魅せられた方々が、全国各地から集まり交流を楽しむのが、この「ヒッコリー・オープン」の日なのです。

開催地は日本のゴルフ発祥の地、神戸GC

神戸ゴルフ倶楽部クラブハウス全景、手前のグリーンのピンフラッグは珍しい三角形 写真:林郁夫

 1903年に日本で最初に造られた、六甲山上にある神戸ゴルフ倶楽部のコースは、山肌の起伏の大きく残る荒々しい山岳コースです。一方で、コース内からしばしば海の景色が見え隠れして、その山と海の景色の対比がゴルフの緊張と弛緩に重なります。

 100年前のヒッコリー時代の雰囲気に合わせて、ニッカポッカーと革靴で、中にはネクタイを締めてジャケットを羽織ったままプレーしている人もいます。思い思いの衣装に身を包みプレーしているので、その本質はむしろハイキングにあるという人もいます。

 コース脇の野生の草花の彩りや香りを感じながらゆっくり歩くと、六甲の山を切り拓いてゴルフ場を造った方々と一緒にラウンドしているような気持ちになるのです。

 100年前の木のゴルフクラブを初めて手にしたときの期待は、ゴルフ用具としての精度ではなく、ただ純粋な好奇心です。「こんな昔のゴルフクラブが本当に使えるんだろうか?」「実際に球を打ったらどんな感じだろうか??」「こんなにも飛ぶんだ!」「気持ちいい!!」そうやって皆、ヒッコリーゴルフにハマっていきます。

 そもそもうまくいかないことが前提なので、ミスショットもまったく苦になりません。シャフトが木でできているので、プレー中に折れることもたまにはあります。渾身の一撃を繰り出したつもりでも、球はわずか数十センチ前に転がっただけで、アイアンのヘッドだけがフェアウェイに向かって一直線に空高く飛んでいく。それを見てみんなで大笑いする。そんな失敗さえも笑いに変換できる、余裕ある大人の遊びがこのヒッコリーゴルフだと言えます。

得点方法には加点法の「ヒッコリーポイント制」も採用

A.H.グルームが使用していたヒッコリーのゴルフクラブ(短くて細く軽い) 写真:林郁夫

 ゴルフでは一般的に、18ホールのスコアを1ホール毎につけ、その合計打数を競うストロークプレーが主流です。どこか1つのホールでも大叩きをすると、挽回が難しくなるため緊張を強いられます。出だしで大きな失敗をしてしまうと、それがずっと後を引き、残りのゴルフが“消化試合”になることもあります。

 一方、本大会には、打数のベストを競うのとは別に、加点法の「ヒッコリーポイント制」(Modified Stableford)も採用されています。ホール毎に、ボギーは1点、パーは2点、バーディーは3点……というようにスコアを加算していき、合計点が多い人が勝ちです。ダブルボギー以上を叩いた場合には、何打かかっても0点でマイナスはありません。すると、どれだけ大きな失敗をしてもスコアには影響しないため、誰でも一緒に思い切り楽しめるようになるのです。

 ニッチな愛好家のコンペと侮るなかれ、実はこの大会、賞品も豪華です。今回出場したすべての選手に「グレンモーレンジィ」のスコッチウイスキー、「ジャガー・ランドローバー」のゴルフグッズ、そして神戸ゴルフ倶楽部からはオリジナルキャップが贈られました。

 また、アトラクションのニアピン賞として「ヒッコリーゴルフショップ」からツイードカバーのウィスキーフラスコが贈られました。

 さらに、1番ホールでのホールインワン賞には「ジャガー・ランドローバー・ジャパン」の協賛を得て「ジャガーFーTYPE」が提供されました。1922年に英国で創業したジャガーは、創業から100年目の節目を迎えており、ヒッコリーや神戸ゴルフ倶楽部と同じ時代を生き抜いてきた象徴でもあります。

 ゴルフの中ではちょっと異端で、独自の楽しみを作り出しているヒッコリーゴルフの新たな企画は「ニホン・オープン」とのことです。詳細は明かされませんでしたが、名前からなんとなく想像がつくそのイベントに、きっと筆者はまた参加してしまうに違いありません。

 いつものゴルフとはちょっと違う、遊び心が満載のヒッコリーゴルフを一度試してみませんか? 遠い昔と現代を、日本と世界を、そして同じ時代を共有している多くの人と人とを結びつける「ヒッコリーゴルフ」の楽しさを、皆さまにもご体験いただきたく思います。

この記事の画像一覧へ(74枚)

画像ギャラリー

全国各地から集まったヒッコリーゴルフの愛好家。中にはプロゴルファーや外国から参加された方々も 写真:日本ヒッコリーゴルフ協会・今西隆氏提供
ご夫婦で仲良く入賞された新谷様ご夫妻。奥さまはイーグルも記録 写真:日本ヒッコリーゴルフ協会・今西隆氏提供
初出場でアマチュア部門ベストグロスの安田さんは、スコットランドの世界大会に出場 写真:日本ヒッコリーゴルフ協会・今西隆氏提供
プロ部門ベストグロスのソバハニさん。神戸ゴルフ倶楽部を初めて、さらにヒッコリーでプレーして見事な3オーバー 写真:日本ヒッコリーゴルフ協会・今西隆氏提供
思い思いのクラシックなウエアに身を包んで100年前の雰囲気を楽しむ 写真:神戸GC会員・播田幸弘氏提供
ゴルフ場備え付けの細いキャディーバッグにクラブを10本入れてスタート 写真:神戸GC会員・播田幸弘氏提供
臙脂色の木造クラブハウスは、藤沢ゴルフ倶楽部のクラブハウスと並び日本最古 写真:林郁夫
神戸ゴルフ倶楽部の歴史を伝える展示品の数々 写真:林郁夫
神戸ゴルフ倶楽部クラブハウス全景、手前のグリーンのピンフラッグは珍しい三角形 写真:林郁夫
日本で唯一、開場当時の状態に再現されたサンドグリーン 写真:林郁夫
六甲山の上では、まだ散り際の葉桜も楽しめた 写真:林郁夫
神戸のビジターロッカーには鍵がなく、こちらはメンバーロッカーの鍵 写真:林郁夫
日本プロゴルフの殿堂入 宮本留吉プロのこの直筆があるのは、神戸ゴルフ倶楽部をはじめ国内で4箇所だけ 写真:林郁夫
明治44年の大阪朝日新聞に掲載された当時の女性ゴルファーの記事 写真:林郁夫
神戸ゴルフ倶楽部開場の始球式で使われた球(右)、それを再現して100周年記念競技の始球式で使われた同型の球(左) 写真:林郁夫
明治時代のゴルフコースは、手作業で開拓され作られた。A.H.グルームの鋸 写真:林郁夫
日本ゴルフの祖、神戸ゴルフ倶楽部を作ったA.H.グルーム 写真:林郁夫
A.H.グルームが使用していたヒッコリーのゴルフクラブ(短くて細く軽い) 写真:林郁夫
クラブハウス入り口では、水仙など季節の草花が出迎えてくれる 写真:林郁夫
参加賞のスコッチウイスキーはこだわりのシングルモルト 写真:林郁夫
新支配人の神谷さん(右端)と記念撮影する参加者の皆さん、衣装もお洒落 写真:林郁夫
1番ホールのホールインワンは、ジャガー・ランドローバー・ジャパン社協賛 写真:林郁夫
ヒッコリーゴルフのクラブバッグは、デザインもクラシック 写真:林郁夫
ヒッコリーゴルフのクラブバッグは、デザインもクラシック 写真:林郁夫
参加者の方が自作したドライバーには、“TOKYO DR. HICKORY JAPAN”の刻印 写真:林郁夫
レストランのテーブルマットにコース図が印刷されている 写真:林郁夫
神戸といえば牛。名物のビーフカツレツを美味しくいただきました 写真:林郁夫
神戸ゴルフ倶楽部の創業者、A. H.グルーム氏 写真:林郁夫
クラブハウスの格子窓から眺める18番グリーン 写真:林郁夫
ホールアウト後には神戸名物の濃霧がコースを包みました 写真:林郁夫
クラブハウスの本棚には、貴重な“GOLFERS' TREASURES”の初版本がさりげなく置かれている 写真:林郁夫
神戸といえば洋菓子。食後のデザートのパイ 写真:林郁夫
入賞者の方々に記念のカップとトロフィー、メダルが贈られました 写真:林郁夫
クラブハウスの本棚には、貴重な“GOLFERS' TREASURES”の初版本がさりげなく置かれている 写真:林郁夫
神戸ゴルフ倶楽部の入れ替え用のバッグ。クラブの本数は10本まで 写真:林郁夫
18番グリーンからコースを振り返る。朝方は晴天だった 写真:林郁夫
1番ティーイングエリアから遠く神戸港が見渡せる 写真:林郁夫
1番ティーイングエリアから遠く神戸港が見渡せる 写真:林郁夫
11番ティーイングエリアからは山越えの正確なショットが求められる 写真:林郁夫
11番ティーイングエリアから目印に建てられているポールからグリーンまでは短い 写真:林郁夫
コースから薄っすらと見渡せる神戸港 写真:林郁夫
11番フェアウェイから振り返る。ここではキャディーがフォアキャディーを務める 写真:林郁夫
11番山頂からグリーンを見下ろす。右からの海風が心地よい 写真:林郁夫
12番グリーンの真下に海を見下ろす。天空のリンクスと呼ばれている 写真:林郁夫
12番グリーンの真下に海を見下ろす。天空のリンクスと呼ばれている 写真:林郁夫
コース脇の花の香りを嗅ぐのを忘れないようにと、往年の名選手ウォルター・ヘイゲンは言った 写真:林郁夫
コース内はアップダウンの連続で、平坦な場所はどこにもない 写真:林郁夫
神戸ゴルフ倶楽部では、山登りの合間に球を打つといった感じのゴルフ 写真:林郁夫
見渡す景色がどこも絵になる、神戸ゴルフ倶楽部 写真:林郁夫
フェアウェイの複雑な形状は唯一無比 写真:林郁夫
16番のコース脇に彩りを添えるのはツツジか 写真:林郁夫
16番のコース脇のツツジに目を留めて、またコースを歩いてゆく 写真:林郁夫
16番のフェアウェイから振り返ると見える臙脂色のクラブハウス 写真:林郁夫
16番2打目地点からグリーンを狙っている 写真:林郁夫
コース奥の17番ティーイングエリアの上部には16番グリーン方向を示す赤いサイン 写真:林郁夫
葉桜も散る花びらも美しい、神戸ゴルフ倶楽部 写真:林郁夫
所々にスミレの花が咲き、ゴルファーの目を楽しませる 写真:林郁夫
バンカー脇のスミレの花 写真:林郁夫
ナイスショットでフィニッシュも決まった 写真:林郁夫
3番打ち上げ。ティーイングエリアの桜の花びらが春らしい 写真:林郁夫
ラフが刈り込まれて広々と涼しげになった神戸ゴルフ倶楽部のコース 写真:林郁夫
4番フェアウェイ脇にも桜がありました 写真:林郁夫
見通しのいい5番ホール 写真:林郁夫
グリーンと空との境目の稜線も美しい 写真:林郁夫
ゴルフは自然の中で行うスポーツなので、雨も楽しんでいる様子のプレーヤーたち 写真:林郁夫
山越えの打ち下ろしホール、フォアキャディーの合図でティーショット 写真:林郁夫
同じホールでも、歩を進める毎にまったく景色が変わる 写真:林郁夫
下りの急斜面からグリーンを目指してアプローチショット 写真:林郁夫
コース内には巨大なコブだらけ 写真:林郁夫
グリーンから振り返る景色をいつまでも見ていたくなる 写真:林郁夫
コースは立体的で、神の造ったオブジェを見ているようだ 写真:林郁夫
コブとコブの間から遠くに桜が見える 写真:林郁夫
やっとたどり着いた山の上のグリーン 写真:林郁夫
10番グリーンの赤い三角フラッグ越しにコースを振り返る 写真:林郁夫

最新記事