都心からまた一つ消える打ちっぱなし…「神宮外苑ゴルフ練習場」の閉鎖に瀬古利彦も王理恵も惜別の辞

　ゴルファーたちに愛され続けて70年。東京都心で健闘を続けていた明治神宮外苑ゴルフ練習場が12月31日、その歴史に幕を下ろすことになりました。ゴルファーたちからは、切なくも悲しい、惜別の辞が贈られています。

　暮れも押し詰まった12月の某日、夕暮れ時。神宮球場の外周に沿ってゆっくりと車を走らせると、係員に止められます。閉鎖の準備に入っているからか、レジでもらうレシートに似た簡便なパーキングチケットを渡されました。

　さらに直進していくと、ようやく2階建てのクラブハウスが見えてきます。車はそこそこ止まっていますが、以前にはあった活気が感じられません。それはこの施設が、まさに終末期を迎えた状態にあることを、スタッフやゴルファー全員が感じていて、そこから発せられる切ない思いが、全体の風景をうら寂しくしているのだと実感させられます。

　3000円のプリペイドカードを購入し、レンタルクラブ1本分の料金である410円を支払い、7番アイアンを借りました。クラブはタイトリストで、グリップも新品同様。まだまだ使えるクラブだけに、施設がなくなってしまうのはもったいない気がします。

　この日は2階の打席を選択。エレベーターはないので階段を上がっていくと、眼前に開放的な空間が広がります。打席のシートも新しく、清潔感もあるのですが、まばらな打席で打つ人々も、どこか寂し気。師走の寒風も容赦なく吹き付けてきて、身も心も凍える感じでしばしボールを打ちました。

　それにしても便利な場所です。JR総武線なら信濃町か千駄ヶ谷、東京メトロなら外苑前か青山一丁目、都営地下鉄なら国立競技場か青山一丁目から徒歩圏という都会の一等地。ここで70年間、ゴルファーたちは腕を磨いたわけです。その中には、多くの著名人の方々もいらっしゃいます。

　例えば、世界的なマラソンランナー・瀬古利彦さん（DeNA Athletics Elite アドバイザー）。

「千駄ヶ谷に住んでいましたから、練習はもっぱら近くの神宮外苑ゴルフ練習場でした。このエリアは上京してからの、僕の原点。昔は国立競技場のトラックのある所でも、ゴルフの練習ができたんですよ。で、神宮第2球場にもあって。その後はもっぱら球場のほうになりましたが……。ボールを打って、トレーニングで外苑を走ってから帰るのが日課だったんです。なくなることは1週間前に聞きましたが、寂しいですね……。復活はしないんですよね？　再開発なんだから、しょうがないよね。でも練習場がなくなっちゃって、本当に困る」と、落胆の色を隠しもせずに、本音を語ってくれました。

　世界のホームラン王・王貞治氏を父に持つ王理恵さん（日本野菜ソムリエ協会理事）も、閉場を惜しむ一人です。

「（青山学院大の）3年時からは講義が青山に移ったので、その合間にも時間があれば行っていました」というほどの常連。

「そこで父が現役時代、二人三脚でコーチをしてくれていた荒川博さん（元・巨人軍打撃コーチ）からゴルフを教わっていたんです。朝・昼・晩と施設内の『グリーンクレス』で荒川さんと食事をしていた日もあったくらい。あのレストランの全メニュー、食べていますね。クラブハウスサンドを、すごくよく食べたと思います。神宮で球を打った日々は、たぶん一生忘れないと思いますね……。だからすごく寂しい気持ちです。本当になくなってしまうんですよね」と、深いため息をついていました。