後半9ホールで息切れは“肺機能・自律神経機能の衰え”が原因
電動カートでのプレーは歩行距離が少なくてラクラク…のはずですが、後半の9ホールで息切れしてしまう人は少なくありません。
息切れの原因は、日本のゴルフコース特有のアップダウンやカートならではの動線によって思いのほか歩数がかさむこともあるでしょうが、「それよりも肺や自律神経の衰えからきているケースがほとんどです。こういうと20代・30代の人やタバコを吸わない人は、他人事ととらえがちかもしれません。しかし、自覚がなくても、肺・自律神経の機能は20代半ばからジワジワ衰え始めますので、中高年だけでなく若い人も注意が必要です」
そう指摘するのは、医学博士で順天大学医学部非常勤講師としてスポーツ医学、自律神経の研究に携わる末武信宏氏(さかえクリニック院長)です。

40代・50代になって息切れに気づいても手遅れということは決してありませんが、できるだけ早くから肺や自律神経を鍛える“肺活”トレーニングを取り入れ、肺機能の衰えを少しでも抑えるに越したことはないというのです。
肺機能・自律神経機能の衰えを抑える“肺活”とは、どのようなものなのでしょうか。
「後半のラウンドで息が切れたり、上りのフェアウェイを歩くと息がハアハアしたりするのは、胸郭が十分拡張せずに肺の中へ酸素が十分取り込まれなかったり、気管支が細くなったりして息が吐きにくくなっていると考えられます。なぜ気管支が細くなるかというと、肺の衰えによって弾力性がなくなり、肺にたまった空気に押されて肺の中の気管支が圧迫されるからです」
「こわれた肺胞を元に戻すことや肺そのものを鍛えることはできません。しかしながら、肺のふくらみによりガス交換の面積を広げることによって肺の働きをよくすれば、酸素の摂取量が増えて血流が良くなります。血流に乗って酸素と栄養も体の隅々に行き渡り、全身が活性化します。この一連の流れを、私たち研究チームは“肺活”と称しているのです」
末武先生はこう説明します。ここでいう「ガス交換」とは、呼吸により肺の中で行なわれる、酸素と二酸化炭素の入れ替えのこと。息とともに吸い込まれた酸素は肺胞で血液中に入って全身をめぐり、血液中の二酸化炭素は肺胞に移動して息を吐くとともに体外へ排出されます。
肺の働きをよくすることで血流を上げ、体を活性化させ肺機能だけでなく自律神経機能も向上させる。これが“肺活”というわけです。とはいえ、一般ゴルファーにはまだピンときません。どうやって肺の面積を広げるのでしょうか。
「肺の面積を広げる方法は主に2つあります。1つは、呼吸に関わる筋肉(呼吸筋)を鍛えること。もう1つは、胸椎と胸郭の可動域を広げることです。そのためのトレーニングやストレッチ法を開発し、ゴルフをはじめ陸上やサッカーなどさまざまな種目のトップアスリートに指導をしています」(末武先生)
多くの選手が成績や記録を伸ばしているといいます。
トップアスリートが行っているトレーニングがどういうものか、気になりますよね。しかも、そのトレーニングは決して激しいものではありません。むしろ穏やかなため、一般ゴルファーはもちろん子供や高齢者でもできるというのですから、取り入れない手はありません。
さっそく、ラウンド後半で息切れしないための“肺活”トレーニングをご紹介いただきましょう。
今回は5つのトレーニングのやり方をご説明します。それぞれを30秒くらいかけて行ない、5つで3分弱。一連のトレーニングを朝、昼、晩など、思い立ったら1日3回程度行ってください。
モデルは、ご自身がジュニアオリンピック3種競技優勝経験をもち、主に陸上競技の指導を行い、肺活トレーナーとして活躍している五十嵐憲文トレーナーです。
1.足首揺らし(左右各15秒)/足全体をリラックスさせる

直立の姿勢で左手を腰に当てます。右足を後ろに曲げ、右手で右足首の少し上をつかみ、カカトを軽くお尻に引き寄せます。この状態で股関節に意識をおいて足首をぶらぶらと振り、リラックスさせましょう。足の甲をつかむと足首が固定されて振れません。また、前屈みだと骨盤の位置を正せません。しっかり胸を張って行ってください。
2.カカト、ツマ先の上げ下げ(各8回)/下腿の血流を促進させる

胸を張り、足を肩幅に広げて立ちます。両カカトを上げて1秒ほど止まったら静かに下ろします。ふくらはぎの筋肉を使っている意識を持ちましょう。次に、すねの筋肉を意識して両ツマ先を上げ、1秒ほどで下ろします。ツマ先が上がりにくいのは足首が硬い証拠。バランスを崩さないよう、クラブで支えてもOKです。
3.腕の投げ上げ(左右×8回)/体幹と上肢を連動させる

足を肩幅くらいに広げて立ち、体幹を左右にひねるのと連動させて腕を動かします。体を左にひねった時は、それに合わせて右腕を前へ、左腕を後方へ投げ上げます。体を右にひねった時は左腕を前へ、右腕を後方へ投げ上げます。指先の力は抜き、体幹を意識しながら、反動をつけてリズミカルに行いましょう。
4.両腕の回旋(左右×8回)/末端への情報伝達をスムーズに

胸を張り、足を肩幅に広げて立ちます。上半身と腕の力を抜き、顔を正面に向けたまま体幹を左右に回転させます。左に回転した時は両腕が体の左側に巻き付くように、右に回転した時は両腕が体の右側に巻き付くように。特に腕は脱力させ、3と同様に体幹と腕を連動させましょう。胸郭を広げるトレーニングです。
5.お腹つかみ骨盤回し(5回×4)/内臓の血流アップに効果的

足を肩幅くらいに広げて立ち、左手で肋骨の下部、右手で腰骨の上部をギュッとつかみましょう。途中で手がずれないように気をつけ、肛門を締めるようにして、骨盤を時計回りに5回、反対回りに5回、ゆっくり大きく回します。左右の手の位置を変え、同じように5回ずつ回します。骨盤底筋群が鍛えられます。
取材協力/(株)ジャパンゴルフマネージメント
【解説】医学博士 末武信宏(さかえクリニック院長、順天堂大学医学部非常勤講師)
社団法人先端医科学ウエルネスアカデミー(AMWA)副代表理事、トップアスリート(株)代表取締役。第88回日本美容外科学会会長をつとめ、 日本美容外科学会認定専門医としてアンチエイジング診療を行なうかたわら、プロゴルファー、プロ野球選手、オリンピック日本代表選手、格闘家、トップアイドルなどのトレーニングやコンディショニング指導など多方面で活躍している。http://www.n-suetake.com/
【トレーニング指導】五十嵐憲文(健康管理士/肺活チーフトレーナー)
AMWA認定トレーナー、トップアスリート(株)スポーツ医学研究開発部部長。順天堂大学体育学部(現・スポーツ健康科学部)卒。学生時代は陸上選手として活躍し、25歳で現役引退後はトレーナーに転身。ジュニアから高齢者、トップアスリートまで、幅広くトレーニングとコンディショニングの指導を行なっている。日本で数少ない肺活トレーナーの一人として活躍中。http://topathlete.co.jp/haikatsu/