「私のことを可愛いっていってくれる人もいる」
◆国内女子プロゴルフ<NEC軽井沢72ゴルフ 8月11~13日 軽井沢72ゴルフ北コース(長野県) 6702ヤード・パー72>
「勝てそうで勝てない」。昨季はトップ10入りが15回ながらも未勝利の菅沼菜々はそういわれ続けていたが、ようやく悲願の初優勝を手にした。
「NEC軽井沢72」の最終日、単独首位からスタートした菅沼は最終18番で追いつかれ、通算16アンダーで神谷そらとのプレーオフへ。2ホール目、菅沼は2打目を1.5メートルにつけると、神谷はグリーンに乗せられずアプローチもピンをオーバーしてパー。菅沼がバーディーパットを沈めると、笑顔で拳を突き上げた。その後、グリーン脇で見守っていた同期の稲見萌寧と抱き合い涙を流した。

「去年なかなか勝つことができなくて、みなさんに初優勝が待たれるっていっていただいて、ずっと悔しい思いをしてきました。やっぱり勝てないかな、と思った時もあったんですけど、優勝することができて本当にうれしいです」
プロ6年目にしての初優勝にホッとした表情を見せると、その後の会見内容は天真爛漫さがあふれ出ていた。
そんな菅沼は無類の「アイドル好き」。試合中でもカメラを向けられれば表情を作り、「プロゴルファー感を出したくない」というSNSではプライベートの姿を積極的に発信することもゴルフファンの間ではよく知られている。
「特に乃木坂46が大好きで本当に可愛くて。自分はそんなに全然可愛くないんですけど、アイドルみたいなプロゴルファーがいてもいいのかなと思って、ポーズとか色々研究してやってます。可愛くないっていう人もいるんですけど、可愛いっていってくれる人もいるので、その人のためにやります(笑)。他の人とキャラがかぶらないようにしたい」
最終日も自分を見に来てくれるギャラリーの方に「アイドルになり切った気持ちでやりました」と清々しさ全開だった。
「なかなか理解を得られない病気」
一方で、そんな姿からは想像できないのが、「広場恐怖症」というハンデを抱えていることだ。自分からいわなければ、他人には伝わりにくく、世間的には広く知られていないのが現状だ。
菅沼が「広場恐怖症」と判明したのはプロ転向後。高校2年の冬に電車に乗っていていると、突然不安感に襲われ感情のコントロールが難しくなり、体調を崩した。当時は「無気力症候群」と診断されたが、プロゴルファーになって「広場恐怖症」と分かってからは公の場で積極的に発信していた。
飛行機や新幹線などの公共交通機関は利用できず、沖縄や北海道のトーナメントにはプロ入り後、1度も出場したことがない。移動手段は車で、もっぱら父がその役を受け持った。
「1人での移動は本当に厳しいので、お父さんは運転もそうですが、コーチもやってくれてて本当に感謝してます。九州の試合も本当に遠くて疲れてるのにいつも応援してくれて、本当に感謝してます」
家族の支えがなければ、成り立たないツアープロとしての生活に菅沼は、ようやく結果で恩返しすることができた。もっと自分のような人たちがいることを世間に知ってほしいという思いもあるようだった。
「(広場恐怖症は)なかなか理解を得られない病気。同じように見た目ではわからない病気を持っている方はたくさんいる。同じ病気の方に元気と勇気を届けられたらうれしいです」
ハンデがあっても好きなゴルフを続けられることへの感謝の気持ちは、結果として実を結んだ。菅沼は「ここで終わらず、すぐに2勝目を挙げられるように頑張りたい」と“自分らしく”あり続ける。
菅沼 菜々(すがぬま・なな)
2000年2月10日生まれ、東京都出身。18年プロテスト合格。20-21年シーズンは賞金ランキング47位で初のシードを獲得。22年シーズンは、メルセデス・ランキング8位と躍進。23年「NEC軽井沢72ゴルフ」では、神谷そらとのプレーオフを制して悲願の初優勝を挙げる。あいおいニッセイ同和損保所属。