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バークデールでは「ナイスガイが勝つ」!? 過去の名勝負が証明する“勝利の女神”が微笑むメンタリティー

2026.07.15 舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
全英オープン 砂場Talk(バンカートーク) 米国男子ツアー

今週開幕する全英オープンの舞台はロイヤルバークデール。ここではジョーダン・スピースの伝説の「練習場ショット」や、パドレイグ・ハリントンの心温まる行動など、技術だけでは語れない名場面が数多く生まれてきた。今年も「ナイスガイは勝つ」の物語が紡がれるのだろうか。

スピースが練習場から放った“神リカバリーショット”

 いよいよ今週は、今季最後のメジャー大会「全英オープン」が開幕する。

 今年の戦いの舞台は、イングランドのロイヤルバークデール。同大会がこの地で開催されるのは今年が11回目となり、過去の優勝者には、アーノルド・パーマー(1961年)やリー・トレビノ(71年)、トム・ワトソン(83年)といった名選手が名を連ねている。

 ロイヤルバークデールで前回開催された2017年大会は、米国出身のジョーダン・スピースが優勝争いの真っ只中で前代未聞の「練習場ショット」に果敢に挑み、優勝トロフィーのクラレットジャグを掲げた。

練習場でツアーバンが止まっているすぐそばからリカバリーショットを放つジョーダン・スピース 写真:Getty Images
練習場でツアーバンが止まっているすぐそばからリカバリーショットを放つジョーダン・スピース 写真:Getty Images

 あのショットは、まるで狐につままれたような感覚にさせられたミラクルショットだったが、あれから9年が経過した今、「詳細は忘れてしまった」という方々、「そもそも知らない」という方々もいらしゃっると思うので、いま一度、振り返ってみよう。

 あれは、最終日の13番での出来事だった。スピースのドライバーショットは100ヤード以上も右に飛び出し、ギャラリーに当たって、さらに右に跳ね飛ばされ、視界から消えた。

 スピースやキャディーを務めていたマイケル・グレラーが「たぶん、このあたり」と思われた一帯でボール探しを始めると、観客の一人が右の丘を指し示しながら「ボールは跳ね上がって、あの丘の上の草の中に落ちた」と証言。キャディーのグレラーは「あんなところに落ちるはずはない」と思ったそうだが、実際に丘の上で見つかったボールは、正真正銘、スピースのボールだった。

 しかし、ボールは丘の上の土の中にめり込んでおり、「そのまま打つのは無理だと悟り、アンプレヤブルにして、どこから打つかを考え始めた」。

 そしてスピースは、どんどん後方へ下がって、グリーンがまったく見えない位置まで遠ざかり、そこから丘越えでグリーンを狙う選択をした。スピースが後方へ下がって「ここだ」と決めたその位置、その場所が、驚くなかれ、バークデールの練習場だったのだ。

 なぜスピースは、わざわざ練習場まで遠ざかったのか?

「練習場はパーフェクトなライが得られるはずだから」

 スピースはフロントエッジまで270ヤードで適切なクラブは3番ウッドだろうと見当をつけた。しかし、グレラーは「230ヤード、3番アイアン!」と叫んだ。キャディーの判断を信じ、練習場から3番アイアンで打ったスピースのショットは、「手ごたえは気に入らなかった」そうだが、グリーン際まで運ぶことができ、そこから3メートルへ寄せて、ボギーで収めることができた。

 あれは、窮地に陥った2人がダメージを最小限に抑えた最高のボギーだった。

ハリントンが示した「ナイスガイは勝つ」という哲学

 スピースが優勝した2017年大会の一つ前にロイヤルバークデールで開催された全英オープンは08年大会。勝利したのは、アイルランド出身のパドレイグ・ハリントンだった。

 ハリントンは、その前年にカーヌスティーで開催された07年全英オープンでセルヒオ・ガルシアとのプレーオフを制して全英オープン初制覇を果たし、「ナイスガイは勝つ」と報じられたばかりだった。

 08年のロイヤルバークデールでも勝利して、大会連覇を達成。「やっぱりナイスガイは勝つ」と称えられた。

 ハリントンは日頃から人柄の良さで知られているが、カーヌスティーで勝った際は、3日間首位を独走しながらも米欧メディアに悪態をついていたガルシアとの対比で、常に謙虚で丁寧なハリントンの勝利が「ナイスガイは勝つ」と評された感があった。

 だが、08年のロイヤルバークデールの際は、とても寒かった最終日に、ただ一人、なぜか半袖姿でスタートしたハリントンが、1番ティーからフェアウェイへと歩き出した直後、ロープ際で車いすに座って寒そうに観戦していた高齢女性のそばへ歩み寄り、ゴルフバッグから取り出した自分のウインドブレーカーを女性のヒザにかけて歩き去る場面が見られた。

 あの日、ハリントンとともに最終組で回っていたのは、当時53歳のグレッグ・ノーマンだったが、神経をピリピリさせていたノーマンとは対照的に、優勝争いの真っ只中でもギャラリー女性を気遣ったハリントンのナイスガイぶりは、とても素敵に感じられた。

 良い人が良い行ないをしたご褒美として、勝利の女神から優勝を授けられるという話は、ある意味、ファンタジーだが、他人を気遣うことができる心の余裕や寛大さ、注意力といったものが、戦いにおけるメンタル面に好作用をもたらすという話は、リアルに信じられる話であり、だからこそ、「ナイスガイは勝つ」のだと私は思う。

「ナイスガイは勝つ」は今年も証明されるのか

 ところで、今年の全米オープンで勝利を挙げたウインダム・クラークは、昨年の全米オープンで予選落ちを喫した際、腹立ちまぎれにオークモントのロッカーを破壊し、オークモントから「出入り禁止」を言い渡された選手である。

 最悪のマナーを世にさらしたクラークが、それから1年後に全米オープンを制し、大会2勝目を挙げたことは、「ナイスガイは勝つ」というフレーズとは矛盾していると思われるかもしれない。

 しかし、今年の全米オープンにおけるクラークは、悪態をつきながらプレーしていたわけではなく、シネコックヒルズのギャラリーから激しい野次やブーイングを受けながら勝利したことは、それはそれで評価されるべき見事な戦いぶりだった。

 そして、クラークと同組でプレーして勝利を逃したスコッティ・シェフラーは、勝者をこう称えた。

「野次に耐え抜き、勝利したクラークは、チャンピオンにふさわしい」

 そんなシェフラーこそグッドルーザーであり、最高のナイスガイでもある。全英オープン、とりわけロイヤルバークデールで「ナイスガイは勝つ」のであれば、その意味でも、シェフラーはまさしく優勝候補の筆頭である。

 そして、もう一人、私が密かに期待を寄せているナイスガイは、今年の全米プロでメジャー初制覇を果たしたアーロン・ライだ。

 ライは華やかなスター選手ではないが、ツアーきっての「いい人」で知られている。アロニミンクで勝利した際は、周囲の誰からも祝福され、ローリー・マキロイも「この場所で、アーロンの優勝を喜んでいない人は一人もいない」と語っていた。

 メジャー覇者となった今も、ライのナイスガイぶりは何一つ変わってはおらず、先週のジェネシス・スコティッシュオープン開幕前には、成績不振で落ち込んでいるスペイン出身のパブロ・ララサバルに秘かにエールを送ったという。

 ライは、ララサバルが優勝トロフィーを掲げたり、脚光を浴びたりしていた以前の写真数枚に、こんな手書きのメモを添えて、ララサバルのロッカーにそっと忍ばせたそうだ。

「この写真の男は、君が思っているよりずっと、今の君に近い」

 直訳すると、こうなるのだが、日本語としては分かりにくいので、少々解説を加えると、「今の君は、自分がすっかり落ちてしまったと思って落胆しているかもしれない。でも、この写真のように輝いていた以前の君と今の君は、君が気に病むほどかけ離れてはいないんだよ」という意味に受け取れる。

「だから、頑張れ。ハードワークを続け、毎試合、毎ラウンド、毎ショット、何より自分を信じて、頑張れ」

 シェフラーも、ライも、ララサバルも、ジェネシス・スコッティシュオープンでは予選落ちしてしまったが、ゴルフはミズモノゆえ、今週は何が起こるか分からず、もちろん誰が勝つのかも分からない。

 ただ一つ、「ナイスガイは勝つ」ことは、きっと間違いない。私はそう信じている。(舩越園子/ゴルフジャーナリスト)

舩越園子(ふなこし・そのこ)

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

【動画】あり得ない場所から打っている! これがスピースの“伝説の練習場ショット” 実際の映像です
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【写真】バレたら“永久追放”!? これがマスターズで“持ち込み厳禁”の品目です
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