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世界ランク“平均12位vs48位”の戦い プレジデンツカップはリブゴルフに“破壊”されたのか?

2022.09.27 舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
グレッグ・ノーマン リブゴルフ(LIV Golf)

2年に1度行われている米国vs世界選抜の戦いプレジデンツカップが終幕。米国優利なのは毎回のことだが、特に今回は主力選手のリブゴルフ入りにより、大幅な戦力ダウンを余儀なくされた。

お互いを“デストロイヤー”と呼び合うPGAツアーとリブゴルフ

 その昔、ザ・デストロイヤーという有名なプロレスラーがいた。

プレジデンツカップ最終日のティーオフを待つ世界選抜の松山英樹と米国チームのサム・バーンズ 写真:Getty Images
プレジデンツカップ最終日のティーオフを待つ世界選抜の松山英樹と米国チームのサム・バーンズ 写真:Getty Images

 私は子供のころ、「デストロイヤー」という英語の意味を知らず、単に固有名詞として認識していたのだと思う。

 だが、後に英語を学び、「デストロイ(destroy)」が「破壊する」を意味する動詞であること、「デストロイヤー(destroyer)」が「破壊する人」を意味する名詞であることを知ったとき、あのプロレスラーの名前は「相手を壊滅させるほどの破壊力を誇る人」という意味を込めて付けられたのだと悟り、「なるほど」と深く頷いた。

 リブゴルフが創設されてゴルフ界が大揺れしている今年、「デストロイ」という言葉が米欧ゴルフ界で飛び交い、「誰が本当のデストロイヤーなのか?」という問いかけが、あちらこちらから聞こえてくる。

 昨年から今年にかけて、リブゴルフ創設に向けて動き出したグレッグ・ノーマンは、運営資金が乏しかったアジアンツアーに資金提供することで、世界6大ツアーの1つであるアジアンツアーを実質的にリブゴルフの傘下に置いた。

 続いてノーマンは「元オーガスタナショナル」「元USGA」「元PGAツアー」といった熟練ビジネスマンたちを次々に高額で雇い入れ、リブゴルフの経営陣を整えていった。

 そして着手したのは、トッププレーヤーたちの勧誘だった。1億ドル、2億ドルといった破格の契約金をオファーして、フィル・ミケルソンやダスティン・ジョンソンといったスター選手たちを次々に引き入れていったノーマンは、リブゴルフ側から眺めれば、「デストロイヤー」とは正反対に、着々と新ツアーを打ち立てていったファウンダー(創設者)であり、実際、強いリーダーシップを発揮しているCEOでもある。

 だが、米欧両ツアー側から眺めたとき、ノーマンとリブゴルフが行なっていることは、長年の歴史を誇るゴルフ界を「デストロイしている」という批判や非難が絶えない。

「私たちが愛しんできたゴルフ界をリブゴルフが破壊しようとしている。ノーマンはデストロイヤーだ」

 一方で、ノーマン自身は母国のジ・オーストラリアン紙の取材において、こう反論している。

「世間では、私たちリブゴルフがPGAツアーをぶち壊したとか、デストロイしているとか言われているが、それは違う。PGAツアーがリブゴルフをデストロイしようとしているんだ」

 果たして、どちらの主張が正しいのだろうか。本当のデストロイヤーは誰なのだろうか。

キャメロン・スミスら主力を欠いた世界選抜チーム

 米国チームと世界選抜チームが国と大陸の名誉をかけて競い合う2年に1度の対抗戦、プレジデンツカップ(9月22~25日、ノースカロライナ州・クエイルホローC)の開幕前、ゴルフ界では「プレジデンツカップはリブゴルフにデストロイされてしまった」というフレーズがこだましていた。

 プレジデンツカップの歩みに目をやれば、1994年の大会創設以来、米国チームが圧倒的な強さを誇り、これまで世界選抜が勝利したのは1度だけ。たとえリブゴルフが創設されていなかったとしても、確率的に見れば、約9割の高い勝率を誇っていた米国チームが今年も勝利することが予想されていた。

 だが、ルイ・ウーストヘーゼン、エイブラハム・アンサー、ホアキン・ニーマン、そして今年の全英オープンを制したばかりのキャメロン・スミスがリブゴルフへ移ったことで、世界選抜チームのプレジデンツカップ経験者は、アダム・スコットや松山英樹など、わずか4名となり、残りの8名はすべて初出場となった。

 もっとも、リブゴルフは米国チームにも影響を及ぼし、いつもムードメーカー的存在だったフィル・ミケルソンをはじめ、ダスティン・ジョンソンやブルックス・ケプカらを欠いた顔ぶれには寂しさが漂った。

 それでも、世界ランキングの平均を比べると、米国チーム12.08に対し、世界選抜チームは47.91と、その差は歴然だった。

 かつて世界選抜チームのキャプテンを3度も務めたニック・プライスは、開幕前から「リブゴルフがプレジデンツカップをデストロイしつつある」と嘆き、「でも、ゴルフは何が起こるか分からない」と、今年の世界選抜キャプテン、トレバー・イメルマンを懸命に励ましていた。

 蓋を開けてみれば、初日は「4対1」、2日目を終えて「8対2」と、予想通り米国チームの圧勝だったが、3日目は20歳のトム・キムがムードメーカーとなり、世界選チームは意地を見せ、「11対7」まで巻き返した。

 最終日の個人戦も米国チームが6勝5敗1分けの接戦だった。それでも世界選抜は米国との差を埋めることができず、最終的には「17.5対12.5」で米国チームが勝利したが、世界選抜チームは巷の予想を覆して大いに善戦し、エキサイティングな戦いぶりを披露してくれた。

 もしもリブゴルフが存在せず、本来ならプレジデンツカップで戦うはずだったスター選手たちが勢ぞろいしていたら、より一層エキサイティングな熱戦が披露されていたのかもしれない。その意味で、プレジデンツカップがリブゴルフの影響を受けたことは明らかである。

 しかし、そうやってチーム構成に影響を受けたことで、米国チームのメンバーはより一層、「やってやるぜ」と戦意を燃やし、最強のチームと化していた。世界選抜チームのメンバーは「オレたちだけでも戦えることを見せてやるぜ」と意欲を燃やし、最大限の力を振り絞った。

 そう考えると、リブゴルフはプレジデンツカップをデストロイしかねない影響を及ぼしたものの、結果的には米国チームにも世界選抜チームにも好影響を与えることになったように思う。

ライダーカップ主将の名誉を投げ打ったステンソン

 しかし、リブゴルフがスウェーデンのゴルフ界に及ぼした影響は「デストロイヤー級」と言わざるを得ない。

 スウェーデンといえば、北欧のゴルフ先進国の1つだ。男子ならイエスパー・パーネビック、女子ならリサロッテ・ノイマンらが、同国出身でワールドワイドに活躍した草分け的存在だ。後にアニカ・ソレンスタムがゴルフ界の女王となって君臨。そして男子ゴルフでは、ヘンリック・ステンソンが2016年に全英オープンを制覇し、世界25勝を挙げ、23年ライダーカップの欧州チーム・キャプテンに選出されていた。

 ステンソンは近年のスウェーデンを代表するプロゴルファーとして、同国のゴルフ・アンバサダーを務めるヒーローだった。

 ステンソン自身、今年3月にライダーカップの欧州キャプテンに就任したときは、「長年の夢が叶った。感無量だ」と涙を流した。

 そんな彼が、それからわずか4カ月後にライダーカップのキャプテン業を放り出して、リブゴルフへ移籍したことは、スウェーデンのゴルフ界を悲しませ、怒らせ、SGF(スウェディッシュ・ゴルフ・フェデレーション)は「もはやステンソンは我が国のジュニアゴルファーの模範とはなりえない。彼との関係を絶つ」と絶縁を記した声明を発表した。

 ステンソンの移籍がライダーカップの歴史にもスウェーデン・ゴルフ界の歴史にも汚点を残し、先人たちが長い歳月をかけて積み上げてきた大切な「重み」をデストロイしたことは否定できない。

 PGAツアーやDPワールドツアーとリブゴルフとの対立が深まる中、「戦う場所を選ぶのは選手の当然の権利」「プロゴルファーがより高額な賞金を稼ぐことを求めるのは当然の権利」といった声も聞かれる。

 それらは確かに「一理あり」だが、選手が戦う場所や賞金は自然に湧き出すものではなく、大勢の人々の努力や協力によって「用意していただいているもの」であり、そうやって長い歳月をかけて培われたものを、「権利」だけを主張して突然デストロイすることが「良いこと」とは思えない。人間としての模範にはなりえないと考えたからこそ、SGFはステンソンに絶縁状を手渡したのだ。

 ただし、ステンソンがスウェーデンのゴルフの何もかもを破壊したわけではなく、関係を絶ち、我が道を守りながら進んでいくことで、かの国のゴルフ界はこれからも成長していくことだろう。

 ビッグマネーという強いパワーを擁するリブゴルフが世界に及ぼしつつある影響は多大であり、あたかもリブゴルフは世界中のゴルフ界をひっくり返すデストロイヤーになりそうに思える。

 しかし、プロレスだって、相手がいなければ戦うことはできず、最強のデストロイヤーの威力は発揮されないのだから、受け止め方次第、かわし方次第で、リブゴルフがデストロイヤーになることを阻止することはできるのではないか。

 もっとも、ノーマンやリブゴルフは「ゴルフ界の成長と発展を目指す」正義の味方となることを目標として掲げており、「デストロイヤーなんて、とんでもない」と反論すること、間違いなしではある。

文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

【動画】松山英樹がプレジデンツカップで見せた圧巻“チップイン未遂”
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