「トランプ」「コロナ」「リブゴルフ」? メジャーに次ぐステータスのWGCを崩壊に導いたもの

メジャー4大会に次ぐステータスとされてきた「世界ゴルフ選手権シリーズ」(WGC)が消滅の危機と報じられている。2016年から17年にかけて松山英樹が2勝を挙げ、日本人にもなじみ深いシリーズとなったWGCは、なぜ崖っぷちに立たされることになったのだろうか。

「何かに対抗するためのアクション」は往々にして皮肉な結果を生む

かつてWGCアメリカン・エキスプレス選手権が開催されたフロリダのドラール・リゾートは、今ではリブゴルフの会場として貸し出されている 写真:Getty Images
かつてWGCアメリカン・エキスプレス選手権が開催されたフロリダのドラール・リゾートは、今ではリブゴルフの会場として貸し出されている 写真:Getty Images

 かつて日本ツアーの賞金ランキングあるいは世界ランキングで上位に食い込んだ選手たちは、みな誇らしげにWGC大会に臨み、大半は「世界のレベルの高さを思い知らされた」と言って肩を落とすパターンが続いた。

 逆に言えば、WGC大会は日本ツアーの選手にとっては敷居も競技レベルも賞金も栄誉も何もかもが高い「すごい大会」だった。

 そんなゴージャスな大会が、なぜ消滅の危機を迎えることになってしまったのだろうか。

 WGC-NEC招待が、その後、WGC-ブリヂストン招待に変わり、さらにWGCフェデックス・セントジュード招待に変わったことは、スポンサー企業の事情であり、PGAツアーにとっては不可抗力だったと見るのが妥当だ。

 WGC-HSBCチャンピオンズが19年大会を最後に開催されなくなっていることは、世の中がコロナ禍に見舞われたことや大会開催場所が上海であることを考えれば、これもPGAツアーにとっては不可抗力と見るべきであろう。

 WGCアメリカン・エキスプレス選手権は大会会場がミズーリ州からフロリダ州マイアミのドラール・リゾートへ移り、タイトル・スポンサーはたびたび変更されたが、ドラールにやってくる選手の顔ぶれは毎年素晴らしく、大いなる盛り上がりを見せていた。

 しかし、ドラールの所有者であるドナルド・トランプ氏の言動がゴルフ界で問題視され始めたことで、PGAツアーは「トランプ対抗策」として同大会の舞台をドラールからメキシコへ移した。

 そうやって突然開始されたWGCメキシコ選手権は、治安上の必要性から大勢のスタッフが選手やメディアのエスコート任務などを負うことになり、米国開催と比べて費用対効果が大幅に低下したことは間違いない。

 そうこうしているうちにメキシコ選手権はWGC大会からレギュラー大会に格下げされてしまった。

 21年に開催されたWGC大会は、デル・テクノロジーズ・マッチプレーとフェデックス・セントジュード招待の2大会のみとなり、昨季からはフェデックス・セントジュード招待がWGCではなくシーズンエンドのプレーオフ・シリーズに組み入れられたため、デル・テクノロジーズ・マッチプレーが「最後のWGC大会」になった。

 そのデル・テクノロジーズ・マッチプレーまでもが打ち切られそうになっている背景には、PGAツアーが今季から敢行している大改革の影響が色濃く見える。

 リブゴルフへの対抗策として、トッププレーヤーが勢揃いするビッグ大会を年間20試合つくり出し、出場を義務付けるという大改革により、今季はPGAツアーの従来の13大会が賞金総額2000万ドル級に格上げされている。デル・テクノロジーズ・マッチプレーも、そのうちの1つだ。

 しかし、これまではメジャー4大会に次ぐ高額賞金とハイステータスが自慢だったはずのWGCが、大改革によって格上げされた他の大会と横並びになったことで、「WGCの特別感がなくなった」という見方が広がり、それがデル・テクノロジーズ・マッチプレーを消滅の危機に追いやっている。

 PGAツアーが打ち出したせっかくの大改革が結果的にWGCの存続を危うくさせるという皮肉な流れは、おそらくは想定外の予期せぬ展開なのだろう。

 だが、トランプ氏あるいはリブゴルフへの「対抗策」という意味合いを込めて起こしたアクションが、いずれも好結果を生んでいないことは、偶然ではなく必然のように思えてならない。

「誰かのためを思って起こすアクション」と「何かに対抗するために起こすアクション」は、出発点が根本的に異なるということを、あらためて認識すべきときである。

 WGC消滅の危機は、ゴルフ界全体に「モノゴトの原点を見直すべし」と、警鐘を鳴らしているのではないだろうか。

文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

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